第1章 小鳥の巣(リヴァイ)
今回の壁外遠征では主に、右翼側の索敵班が命を落とした。
しかし、全体的に見れば、その被害はこれまでと比べて少なかったと言える。
つまりは・・・成功と考えて良いだろう。
帰還から数日がたった、ある日。
中庭に面した外廊下を歩いていたリヴァイは、ヨシノが茂みの間でうずくまっていることに気が付いた。
以前、彼女が同じようにしていた時は、巣から落ちた雛を抱えていた。
リヴァイはため息を一つ吐くと、そちらに足を向ける。
「おい、何してるクソガキ」
あの時と同じように声をかける。
すると、振り返ったその顔は、あの時とは異なっていた。
「リヴァイ兵長・・・」
大粒の涙で濡れた瞳。
視線を落とすと、その手に一通の死亡通知書が握りしめられていた。
壁外で戦死した班員の死亡通知書を遺族に届けるのは、班長の務め。
だが、そう簡単に受け取ってもらえないことがある。
それはリヴァイも何度も経験していた。
「同期の班が全滅したので・・・私が代わりに通知書を届けたのですが・・・同期の家に行ったら・・・」
産まれたばかりの赤ん坊を抱えた妻。
ヨシノが持ってきた通知書を見た瞬間、取り乱して泣いた。
“私達はこれからどうすればいいの?! そんな紙切れなどいりませんから、どうかあの人を返してェ・・・!!”
崩れ落ちて泣く同期の妻を前に、ヨシノは動けなかった。
“じゃあ・・・絶対に帰ってこなきゃ”
“生まれてすぐに父親がいないのは、可哀想だから”
同期の家族を、幸せの絶頂から、悲しみのどん底に落としてしまった。
赤ん坊の泣き叫ぶ声。
夫を亡くした妻の悲痛な声。
耳について離れない。
「私は・・・班員だけじゃなく、同期までも殺しました」
「・・・・・・・・・・・・」
「あの時・・・通常種の巨人二体を班員だけに任せず、私も戦っていたら・・・」
入団二年目の兵士二人は、ヨシノに任された巨人を倒すことができなかった。
でも三人だったら可能だったかもしれない。
「同期の班を奇行種が襲っていました。そのうちに、私の班が片付けられなかった巨人まで集まってきて・・・」
もし、ヨシノの班全員が生きていたら、力を合わせて奇行種も全て倒すことができたかもしれない。