第1章 小鳥の巣(リヴァイ)
唇を重ねるたび、ヨシノの口内に残っていた巨人の体液が、リヴァイの口の中に入ってくる。
地下街のドブの方がマシだと思える臭いを放つ粘液を、時折唾と一緒に吐き出しながら、それでも呼吸を送り続けた。
何度、そうしていただろう。
「・・・ッ、ゲホッ!!」
突然、激しく咳き込み、その衝撃で自ら呼吸をし始めるヨシノ。
リヴァイは安堵した瞳で、少し名残惜しそうに唇を離した。
「ゲホッ・・・ゲホッ・・・」
「生き返ったか・・・」
「リ・・・ヴァイ兵長・・・?」
「運の良い奴だ」
焦点が合わない瞳だが、意識はあるようだ。
少なくとも、目の前の男をリヴァイだと認識できている。
「私・・・あれ、どうしてここに兵長が・・・?」
「それよりも馬に乗れるか? 本隊から随分と離れちまったから、すぐに戻らないと合流できなくなる」
「・・・・・・・・・・・・」
しかし、ヨシノはリヴァイに抱き起こされ、周囲の惨状に気が付いたらしい。
二人の周りに散乱する同僚達の死体に、叫び声を上げた。
「私っ・・・班員だけじゃなく・・・他の人達まで死なせてしまった・・・!」
「立て。今は戦死した奴を悼む時間はない」
「私のせい・・・私のせいだ!」
体が震え、まともに立ち上がることができない。
「反省も、後悔も、全部あとにしろ。今は本隊と合流する方が先だ!」
「私が・・・なんで生き残って・・・私が判断を・・・」
「ヨシノ!!」
リヴァイはとうとうヨシノの頬を叩いた。
力を加減したつもりだったが、不意打ちの衝撃に唇が切れてしまう。
「お前が今すべきことは、ここで死ぬまでピーピー泣き喚くことか?」
その瞬間、ヨシノの涙が止まる。
「それとも、生き延びて使命を果たすことか?」
その答えは、心臓を人類に捧げた兵士ならば考えるまでもないこと。
「俺の馬に一緒に乗れ。今のお前じゃ、危なっかしくて一人で走らせることはできない」
「兵・・・長・・・」
「二度と面倒はご免だと言ったはずだ」
まだふらつくヨシノを馬に乗せ、後ろから抱きしめるように手綱を握る。
「クソガキが・・・」
リヴァイの言葉は、その冷たさとは裏腹に、とても優しくヨシノの心に響いた。