第1章 小鳥の巣(リヴァイ)
司令部を離れ、随分と逆走しているというのに、なかなか索敵班と鉢合わせない。
「おかしい・・・」
リヴァイは一人、舌打ちをした。
長距離索敵陣形は必ず、互いの姿が確認できる位置までしか離れない。
見渡しても索敵班の姿が見えないということは、右翼側の隊列は崩壊したということか。
ふと、500メートル先に気配を感じて顔を上げる。
目を凝らすと、一カ所に巨人が群がり、モゴモゴと口を動かしていた。
輪になった中央には、幾人も人間の手足が見える。
兵士が・・・食べられている。
リヴァイは、全身の毛穴が逆立つ感覚を覚えた。
直後に沸き上がる怒り。
しかし一切の感情を表に出さぬまま、ギリギリまで馬を寄せると、立体機動装置を発動させた。
一番大きな巨人のうなじにアンカーを突き刺し、空高く飛び上がる。
幾人もの兵士の死骸が目に映った。
流れる真っ赤な血が雑草を染めている。
その先に、かろうじて巨人に刃を向けている女兵士の姿が見えた。
かなりの手傷を負っているのか、それともほぼ戦意を喪失しているのか。
すでにフラフラとして、今にも巨人の手に落ちそうだ。
その兵士の輪郭がハッキリとした瞬間、リヴァイの心臓がドクンと鳴った。
「ヨシノ・・・!」
巨人の髪にしがみつき、折れた刃を片目に突き刺している。
そんな攻撃など、効くはずもない。
「バカ野郎、そこから降りて体勢を整えろ!!」
しかし、リヴァイの声は届かなかった。
あの野郎、何か様子がおかしい・・・?
だが、ヨシノに構っている暇はない。
三体の巨人がリヴァイを取り囲んでいた。
「チッ!」
リヴァイが巨人一体を殺すのに、十秒もかからない。
三体を倒すその僅かな時間すら、ヨシノを死なせるには充分だった。
「アイツは奇行種か・・・!」
リヴァイとヨシノを見て、後者の方が弱いと認識したのだろう。
奇行種はまず、前髪にぶら下がっていたヨシノを掴むと、大きな口の中に入れ込もうとした。
「そうはさせねぇぞ!」
リヴァイがアンカーを打ち込む。
その一瞬早く、意識を失いかけたヨシノの体は、巨人の食道へ吸い込まれていった。
「ヨシノ!!」