第5章 無血の花嫁(ルフィ)
「鐘を鳴らしてくれないんならいいよ! ヨシノは、おれが力ずくでもらっていく!!!」
マリンフォード頂上戦争で、三大将をも相手にしたモンキー・D・ルフィ。
「キュウリの女じゃなくて、一人の人間としてな」
大きな二つの目が向けられたその瞬間、丘に集まっていた者たちに、今まで感じたことのない恐怖が襲った。
立っていられないほど膝がガクガクと震え、口から泡を吹いて気絶する者も出る。
覇王色の覇気を、常人が耐えられるわけがなかった。
しかし、司祭だけは踏みとどまり、ルフィを睨む。
ちょうどそこへ、通報を受けた海兵たちが集まってきた。
「オイオイ・・・退屈な島だと思っていたが、ようやく楽しめそうだな」
もう“キラウィだろ”とツッコむことはせず、赤い舌で唇を舐めながら刀に手をかけるゾロ。
「麗しい踊り子ちゃんを悲しませる野郎は、このおれが許さねェ」
煙草に火をつけるサンジ。
丘に駆け付けた海兵は50人ほどか。
さらに、島の自警団、キラウィの男たちを含めれば、敵の数は100人以上に及ぶ。
平和なバオブ島にこれほどの騒ぎが起こるのを、ヨシノは今まで見たことがなかった。
「大丈夫よ、ヨシノ。私たちが貴方の自由を守ってあげる」
「ナミさん・・・」
「アイツらの強さは、ハンパじゃないんだから」
航海士が“天候棒”を天高く掲げると、みるみるうちにその先に黒い雷雲が生まれていった。
雷・・・雲・・・
嵐・・・?
それを見たヨシノの心臓がドクンと鳴った。
「ヨシノはおれの花嫁だ。おれを止めたかったら、軍艦でも引っ張ってこい」
海賊王から四皇へ託された麦わら帽子。
それを守る男が、右脚を大きく伸ばす。
「ゴムゴムのぉ・・・」
ヨシノは自由だということを、この島の人間に分からせるため。
そして、ヨシノ本人に分からせるため。
「ムチィィ!!!!」
伸びた脚で叩き込んだ回し蹴りは、半分以上の海兵を一瞬で吹き飛ばした。