第1章 小鳥の巣(リヴァイ)
「私が奇行種の足を止める! 援護して!」
黒煙の柱が破門状に広がっていくことを確認し、立体機動装置に手をかけた。
戦いの場で先導を切るのは初めてだ。
私の判断が、班員の命を左右する。
覚悟を決め、巨人の足元に回る。
奇行種でもアキレス腱を切れば止められるはず。
しかし、馬が巨人の大きな足に怯え、十分に距離を縮めることができない。
「チッ!」
仕方なく、立体機動装置を巨人の背中に向かって撃った。
自分が直接、目標の体に乗って仕留める。
そのつもりだった。
「班長!!」
ヨシノの刃が届く一瞬前、巨人が上半身を大きく捻った。
大きな遠心力がかかり、皮膚に浅く打ち込まれていたアンカーが簡単に抜けてしまう。
ヨシノはバランスを崩し、一度地面に降り立つほかに無かった。
「大変です! さらに二体、こちらにやってきます!」
「くそ!」
この奇行種に引き寄せられたというのか。
二体の巨人が、木偶の坊のような図体を揺らしながらやってくる。
どうする、この奇行種を先に仕留めるべきか。
それとも、あの二体を片付けるべきか。
「班長、どうしましょう!!」
「指示を!!」
どうする・・・?!
すると、ヨシノを振りほどいた奇行種は、ノソリと体を隊列の中央へと向けた。
「こいつ・・・人が多くいる方を目指しているのか・・・」
これは、三人だけで対処できる状況ではない。
ヨシノは懐から銃を取り出すと、紫の煙弾を込めた。
「緊急事態だ。どうか、エルヴィン団長に一刻も早く届きますように」
空高く昇る、紫色の煙。
しかし、これだけでは司令部に詳細な状況を伝えることができない。
こうしている間にも、奇行種は隊列奥深くまで侵入しようとしている。
奇行種は自分がやるしかない。
「二人にあの二体を任せる」
「班長?」
「私が奇行種を殺す。倒したら必ず戻ってくるから!」
もうじき、あの奇行種が同期の班の所まで辿り着いてしまうだろう。
見れば、すぐ近くから新たに赤の信煙弾が上がっている。
巨人が集まってきているんだ。
一刻の猶予もない、早く排除しなければ。
「了解! 班長、ご武運を!」
ヨシノの班は一時離散。
それが・・・初めて率いた班員との最後の言葉となった。