第5章 無血の花嫁(ルフィ)
午後7時30分。
鐘がある丘にはすでに、この日バオブ島で挙式した数組のカップルが集まっていた。
辺りからはこの日の演出である、ピンク色をしたハートのシャボン玉が惜しみなく噴出している。
もうすぐキラウィのダンスが始まり、永遠の愛を誓い合った者たちを祝福するために、鐘の音が島中に鳴り響く時間だ。
今夜は快晴。
空には幾千もの星が瞬き、新たな人生への船出として最高の夜だった。
そんな幸せムードの裏で、キラウィの乙女たちは真っ青な顔をしながら、儀式をつかさどる司祭の元へ走っていた。
「司祭様、ヨシノの姿が見当たりません。」
「2時の鐘の時は確かにいたのに・・・!」
「“直系”の血を引く踊り子がいなければ、儀式ができません」
“直系”とは、キラウィの中でも最も優れ、人々を魅了する踊り子を輩出する一族のこと。
バオブ島では、モリス家を含めた3組の血族が“直系”とされ、鐘を鳴らす儀式の際はその身体にキラウィの祖が宿ると信じられている。
そして、夫婦となる者たちの誓いの言葉を報告するという重要な役目を担う。
“直系”の踊り子は誰よりも容姿に優れ、また未婚であることが条件とされていた。
「ヨシノはいったいどこへ行ったんだ!」
儀式の時間まであと数十分。
島の長でもある司祭が苛立ちながら叫んだ、その時だった。
「おーい! おれたちも入れてくれ!!」
海の方から聞こえてきた明るい声に、儀式の参加者と、それを見物しに来た観光客が一斉に振り返った。