第5章 無血の花嫁(ルフィ)
「よーし!! じゃあ行くか!!」
ルフィはグルングルンと右腕を回しながら、市街の中央部に目を向けた。
「ルフィ、何をする気?」
すかさずナミがギクリとした顔で船長を見る。
彼が何かを企む時は、十中八九、悪いことしか起こらないことを、全員が身をもって知っている。
「そりゃお前、この島の奴らに鐘を鳴らしてもらいに行くに決まってんだろ」
「はァ?」
「確か、今日はあと1回、鳴るんだよな?!」
ルフィが言っているのは、午前10時、午後2時、夜の8時と1日に最大で3度鳴る、小高い丘の鐘のこと。
この鐘の音は、愛し合った二人が家族となる瞬間を島中の人間に告げる。
「おい、フランキー! 船の修理は?」
「アウ、いつでも出航できるぜ!」
「よし! 今から行けば間に合うな」
まさか、今日の最後の鐘を鳴らしてもらおうというのか。
「ルフィ、それは無理よ。鐘を鳴らすには、キラウィの祝福を受けなくてはいけない」
キラウィの女が舞い、キラウィの男が鐘を鳴らして初めて、バオブ島での婚礼は認められる。
「だから、鳴らしてもらえばいいじゃん」
「そんな簡単にはいかない! それに、私が島を出ようとしていることが分かったら、島の人たちが黙っていないわ」
「そうなのか?」
「そうよ! もし私と一緒にいることが分かったら、世界政府加盟国であるバオブ島の観光資源を奪ったとして、貴方たちは世界的な犯罪者となる」
「今さらなに言ってんだ、お前」
焦るヨシノとは対照的に、ルフィは麦わら帽子の下から不敵な笑顔を見せた。
「おれたちは海賊だぞ」
世界政府へのケンカなら、これまでいくらでも売ってきた。
「だから心配すんな」
自分たちの自由を阻むものは、許さない。
ルフィの笑顔には、仲間を安心させる優しさと、敵を圧倒させる恐ろしさの両方が存在していた。