第5章 無血の花嫁(ルフィ)
しんと静まり返る中、全員の視線がヨシノに向けられる。
“移民と恋に落ちてはいけない”
“島から出てはいけない”
この世に生を受けた瞬間からそう言い聞かせられてきた、稀有な血を継ぐキラウィの宿命──
それが今、初めて崩れようとしている。
「私はモリス・ヨシノ。キラウィの血を引く者です」
この長い歴史の中で、どれだけのキラウィが許されない恋に泣いただろう。
ここは“新世界”。
バオブ島の周辺は穏やかな海域だが、ひとたび船を出せば何が起こるか分からない。
どこか遠くの島へ駆け落ちするほど勇気のある人間がどれだけいただろう。
「私にできることは、ただ踊るだけ」
シャランと耳飾りを鳴らし、未来の海賊王の前に跪く。
その姿はまるで、忠誠を誓い、命を捧げているかのよう。
「それでもよろしいというのなら・・・どうか私を海賊として、貴方の妻として、おそばに置いてください」
呪縛に囚われていた、自分の人生。
やっとそこから救い出してくれる人に出会った。
これからは自分と、愛する人たちのためだけに踊ろう。
すると、麦わら帽子を被った精悍な男は、ニッと笑った。
彼の後ろに控えるは、精強を誇る仲間たち。
「ししし! だから、さっきからずっと言ってるだろ! おれと一緒にいろって!」
その瞬間、強い潮風が吹いた。
まるで、これから出航する船の帆を後押しするかのように。
「もう二度と誰かに跪くようなことはするな。望まねェダンスもするなよ」
この船に乗る以上は、みな対等であり、みな自由。
同じように命を賭け、同じように背中を守り合う。
夢そのものは違えど、同じように夢を追いかける仲間たち。
ヨシノもその一人として、そして、その船長の花嫁として、サウザンドサニー号に歓迎された。
ここに一人、新たな海賊が誕生した。