第5章 無血の花嫁(ルフィ)
美しきキラウィのダンスが終わってからも、サニー号の甲板はしばらくシンと静まり返っていた。
ヨシノの目から零れた涙が、芝生の上に落ちる。
ダンスの最中に泣いたことなど、生まれて初めてのことだった。
「私はただ・・・自由になりたい・・・」
もう・・・他人の幸せな結婚式が雨と一緒に全部流れればいいと、テルテルボーズを逆さまにつるして呪うことなんてしたくない。
ヨシノはゆっくりと顔を上げ、麦わらの一味の顔を一つずつ見た。
「おい、ルフィ」
最初に口を開いたのは、海賊狩りロロノア・ゾロ。
「お前、コイツの踊り見てなんか感じたか?」
ルフィは首からぶら下げていた麦わら帽子を被ると、首を傾げた。
「うーん、踊りがうまいなー」
「それだけかよ?」
「ああ。おれ、ダンスとかよくわかんねーよ」
それは、問いかけたゾロ自身もそうだったのだろう。
特に興奮した様子もなく、眉間にシワを寄せる。
「おそらく、人間の感情を昂ぶらせるっつうお前のソレ、覇気のようなモンだろ」
「は・・・き・・・?」
「おれやルフィはもちろん、うちの船に乗っている奴は全員、ある程度の覇気には耐えられる。随分と気にしてくれていたようだが、お前の力はおれたちにゃ効かねェってことだ」
ゾロがハッキリとそう言った直後、後ろからバラ色の声が飛んできた。
「うぉぉぉ!! おれは高ぶったァァァ!!! んナミすわ~ん! ロビンちゅわ~ん!! 今すぐおれとケッコ・・・フゴッ!」
「うるさいわ!!」
ハートを飛ばしながら美女二人に飛んで行ったサンジが、ナミの鉄拳を食らっている。
うひゃひゃひゃ、と大爆笑しているルフィの横で、ゾロは蔑むような目を腕利きのコックに向けた。
「ああ・・・あのアホは気にすんな。アレで通常運転だ」
大きなタンコブを作ってもなお、目をハートにしているサンジと、楽しそうに笑っている仲間たち。
想像していた海賊の姿とはあまりに違う・・・
気が付けば、この船に乗ってから初めてヨシノの顔に笑みが浮かんでいた。