第5章 無血の花嫁(ルフィ)
キラウィのダンス。
博識のロビンすらも、それを目の当たりにするのは初めてのこと。
バイオリンを奏でましょうか? という音楽家ブルックの申し出を断り、ヨシノは潮風の中に両手を伸ばした。
キラウィが踊るのに、音楽は必要ない。
この心臓の鼓動がリズムとなり、
この耳と首元を飾る宝飾品のぶつかり合う音が音色となる。
この腕を一振りすれば、見る者の心拍数を上げ、
この腰から上を震わせれば、見る者の心を熱くさせる。
婚礼を祝い、
出産を願い、
キラウィはダンスで人々を魅了する。
太陽が沈み、夜空に星が瞬き始める頃。
麦わらの一味は息を飲みながら、一人の踊り子の流れるような仕草に魅入っていた。
キラウィは、心を持たぬ花。
必要とされるのは、美しさと華やかさのみ。
必要とされなくば、ただ枯れて朽ちるのみ。
花に感情はいらない。
ただそこで咲き誇っているだけでいいのだ。
「美しくなくても・・・華やかでなくても・・・私には心がある・・・!」
シャランと耳飾りが鳴る。
「枯れようと・・・朽ちようと・・・私には感情がある・・・!」
悲痛な声すらも、そのダンスに溶け込み、見ている者をさらに深く魅了する。
「私は花でも、観光資源でもない・・・!」
───人間だ。
この果てしなく広がる海の向こうへ、どうか私を連れて行って・・・
静けさと、一粒の涙とともに、ヨシノの手足がゆっくりと止まった。