第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
「晴天」
その名がよく似合う空だ
夏の初めというような気温
空は雲一つ見当たらない
絵の具をひっくり返したような青だ
「良いお天気だね、三成くん」
「ええ。ですが…少し日差しがありますね。 湖様、こちらをかぶってください」
三成の馬に乗せられ、頭に掛けられたのは夏物の薄い羽織だ
着物の向こう側がうっすら透けて見えるほどの薄い衣だった
「わぁ。これ、すごく綺麗だね」
それは、桜色の夏羽織だった
「日よけになりますからね」
「そーだぞ。お前は白いんだからな、焼けたら赤くなって痛いだけだぞ」
「そーなの?」
「そーだ」
横に付くのは、政宗だ
三成、横に政宗、後ろに幸村がそれぞれ馬に乗って道を進む
その三成の馬に湖は相乗りしていた
政宗の手が羽織を持ち上げ、湖の頭にふわりとかぶせる
「で、何処行くんだー」
後ろからかかった声に、三成が応えた
「まずは、近くの森にいきましょうか」
「森…うさぎさんとか、たぬきさん見られるかな?」
「おそらく見れるでしょう」
「わぁ。くまさんとかも会えたらいいなぁ」
(((熊…?)))
はっと気付くのは幸村だ
湖がコロの事を思っているのだと…
ただあれは、小熊な上人慣れしている熊だ
「…熊は止めておけ。湖」
政宗がそう言えば、湖は首をひねる
「可愛いのに」
「…熊…が、ですか?」
「うん。可愛いのよー。湖のお友達に熊さんと山犬とうさぎさんがいるの!ねっ幸」
三成も不思議そうにしていれば、湖は幸村に同意を求めてくるのだ
「あの二匹と、自然に居る動物を一括りにはするな。熊なんて出ても絶対に近付くなよ」
「でも・・」
「湖っいいな?」
「…わかったぁー」
ぷっくり頬を膨らませて納得いかない表情を浮かべた湖
そんな湖を見て政宗と三成は苦笑する
やがて森に着いた一行
三成は、自然の営みについて話をしだし、
湖から出てくる質問に答えながら、ゆっくり馬を進めていった