第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
「湖様」
様子を見ていた三成が湖を呼ぶ
湖は「うん?」と言いながら三成の方を見れば、いつもとは違う笑みの消えた顔をしているのだ
「三成くん?」
「…明日」
「うん?」
「明日は、少し趣向を変えた勉強を致しましょう」
いつもの笑みだ
首を傾げて「しゅこう?」と尋ねる湖と、何をするのかと探りの眼差しの兼続
「天気が良ければ、外に出ようと思います。兼続殿、よろしいですか?」
「外へ…でございますか?何をされに行くつもりでしょうか?」
「自然の摂理を見に行きたいと思います」
それでピンと来るのは、兼続と信玄
「……なるほど。なるほど…そちらからですか…」
「諭すわけか…」
幸村と佐助、それに白粉は「なにがだ」と理解していない様子だ
「かまいませぬ。ただし、誰かお連れください。石田殿の事は信用しておりますが…」
「解りました。では…」
そう言い彼らの顔を見ると
「すみません。俺は少し任がありますので」
「兄さま。お仕事?」
「そうなんだ」
「…最近遊んでくれないのは、忙しいから?」
「少しね。夜には戻るから」
「わかった…気をつけてね」
そんな佐助と湖の会話を聞きながら、幸村は信玄の方を見る
すると軽く信玄が頷くのを見て
「俺が行く…何を勉強させるのか理解してねぇけど」
「ついてってやる」と湖の頭を軽く撫でた
「幸、来るの?幸も一緒にお勉強だね」
「…要らねぇ」
「三成くんのお話楽しいよー」
「付いていくだけだ…気にすんな」
「ふーん…わかった」
「幸村殿、よろしくお願い致します」
三成がにこりと微笑み礼を言った時には、皆のお膳は空になった頃だった
「では、私は明日のために…書庫から数冊書籍をお借りしてよろしいでしょうか?」
「もちろんで御座います。某もご一緒致しましょう」
三成と兼続が席を立った
「あ。白粉殿」
「っ、な、なんだ…」
キッと睨まれた兼続は
(どうされたのか…機嫌が優れないのか…?)
「いえ…食事が進まれていないようでしたので…」
「あぁ…気にするな。私は、妖なのだ…食べぬとも特に支障はない」
「そのように。誰でも何者であっても、食事は生きる糧。後ほど食べやすいものをお持ちしましょう」
「…構うな」