第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
指名された佐助はすかさず
「ダメ」
「…兄さま、湖が六歳になってから冷たい」
「当然です。湖さん、そろそろ一人で寝られるようになろう」
「…乗っからないから」
「駄目です」
「けち」
「けちで結構です」
食事をしたまま表情を崩さない佐助を、信玄がくくっと笑いを殺しながら見る
ぶーっと頬を膨らせた湖が次に指命したのは…
「なら、三成くんと寝る」
ぶはっと、食事をはき出したのは兼続と幸村だ
佐助とのやり取りも湖の寝方にもずいぶん慣れてきたが、この指命は別だ
指名された三成はきょとんとするも、信玄は笑いを止め代わりに眉を寄せた
「っ!?なっ、なぜそうなるのです!」
「だって、三成くん。すぐに帰っちゃうんだもん。もっといっぱいお話したいもの」
「駄目です!石田殿は城では休まれません。伊達殿も同様!」
米を頬につけたまま兼続が否定する
「湖っ、お前いい加減…性別って奴を理解しろ!」
「幸は何を怒ってるの?せいべつ?知ってるよー。男と女でしょ?そんなのしってるもん」
「いーや。解ってねぇ!佐助っ、どうにか言え!」
「…湖さん、夜這・・」
「だぁぁああ!!止めろっ!お前っ」
「俺に言えといったのは幸村だ」
はぁっと小さくため息をついた湖
まるで呆れているように
「だってね、」
ちらりと信玄を見る湖
「ととさまも最近、湖のこと下ろすもの」
「…あのな、そろそろ重いんだぞー」
嘘だ
重くなんてない
身長と体重のバランスが悪いこの湖は、上に乗せて眠っても重みはほとんどない
(ただな…足がな…)
九つには見えない身長の湖、寝衣からはだける足が信玄の足に絡まる
(やっかいだ…)
「重い」と言われた湖は、くりっと目を見開き
「あ…そっか、忘れてた。湖、大きくなったんだよね…もしかして、ずっと重かった?」
「寝るときだけな。抱えてる分には支障ないけどな」
ははっと笑えば、湖は「んーーー」と少し眉を寄せ
「わかった」と了承したのだ
「じゃあ…鈴の姿ならいい?」
「鈴なら良いぞ」
それなら足も絡まらない