第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
「こうして白粉様を抱え歩くのは…なんでしょうか…こう照れまするな」
『…ばかばかしい』
(ばかばかしい、本当に…)
「それにしても…やはり美しい毛並みですな…人の白粉様も美しいですが、猫の姿もまた…」
今猫の姿で良かったと白粉は思う
人の姿であれば、肌が染まるのを隠すことはできないだろう
だが、この姿であれば自分は白く見えるだけなのだ
(仮初めの時間…おかか様は「未練の塊」と仰った…そうだ。私は「母親」だけで良い…「母親」だけで十分に幸せだ)
『ならば、人の姿も見せてらろう。私は着物取りに部屋に戻るのだ』
からかうようにそう言えば、兼続の体はびくりと反応する
「さ、さようでございますか!では、お部屋にお送りした後、すぐに女中をお呼びしましょう!」
ささっと歩調が早くなる
(そう。母親だけで十分だ…)
夕餉には、政宗の料理を…その予定が、謙信と政宗は再度稽古場に入ったきり出て来ない
鈴は湖が起きたと同時に入れ替わり、
信玄の部屋に置いてある着物に着替えた湖は残念そうな顔を見せた
「政宗のご飯食べたかったのに」
そんな湖を見て幸村は笑った
「あぁ。でも…あいつがいる間、俺は平和だ」
「今回、お二人の滞在期間はあとどのくらいですか?」
佐助の問いに答えたのは三成だ
「えぇ。私も政宗様も三日後にたちます」
「えっ。三成くん、帰っちゃうの…」
それに驚くのは湖だ
「はい。今回は湖様の様子を伺いに来たまで。元気なお姿が見られ、安心しております」
「……また来てくれる?」
「もちろんです。それにまだ三日あります」
「っ、うん」
ふふっと、頬を染める湖に信玄が眉を下げた
(まずいぞー謙信。お前が憂さ晴らししている間に、湖が恋に落ちるぞぉ)
かつん…
箸をお膳に置く音に湖が振り返った
「かかさま。どうしたの?食欲ないの?」
「……ん…どうした?何か、言ったか?」
「…かかさま、変よ?」
白粉のお膳はほとんど手つかずだ
「問題ない。少し考え事をしていただけだ…湖、私は今夜は出歩く。お前今夜はどこで寝る?」
「んーーーじゃあ…兄さまのとこ」