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【イケメン戦国】私と猫と

第26章 桜の咲く頃  三幕(九歳)


そしてこの時、ついに我慢出来ずに白粉を抱き上げようと近付いていったのだ

だが、白粉は悶々と考え事中
珍しく人の気配に気づかず歩いていた

(なにが触らさせて…だ…知るか。なつく等…私は妖だぞ)

頭を下げながら歩く白猫の背中に、両手が回りそうになったときだ

「これ、そのように猫を持ち上げれば驚かせてしまいますぞ」

と、今考えていた人物の声がした

(っ、兼続…)


振り向けば、そこには自分にしつこく構ってくる家臣の手が間近にあった
それに驚いて白粉が身を固める

「兼続様っ」
「そう言えば、そなたに頼んでいた報告書が上がっていなかったな。どうされた?」
「はっ。今すぐお持ち致します」
「あぁ。頼む」

白粉の近くにいた家臣二人がその場を去れば、そこにはため息をつく兼続と
人の気配に気づけずにいたことがショックの白粉が残る

「…珍しいですね。考え事でございますか?」

距離を保ったまま苦笑いで尋ねた兼続

『自分でも驚いている…』

目を開く白粉は、本当に驚いた様子に見えた

「…某が部屋までお連れしましょうか?」

そう聞かれれば、信玄の先ほどの言葉を思い出してしまう
ーだけどな。俺より、兼続に触らせてやったらどうだ?ー

(触れさせることは…別に構わない…誰にでもは無いが…)

別に信玄だから触らせたわけではない
湖や佐助にだって猫の姿で抱えられたことは幾度もある

(今更意識することでもないだろう)

『…なら頼む』

そう言い、兼続の足下に寄ってきた白粉に兼続は満面の笑みを浮かべるのだ

「承知致しました」

と…

その手が白粉を抱き上げた時
白粉は不覚にも意識してしまう事になる

抱えられ近付いた兼続の顔を見て、彼の匂いを嗅いで

(……っ、な…)

どきりと跳ねた心音
信玄に撫でられるより、佐助に抱えられるより、湖に抱き上げられるより
落ち着かない身の置き所に

「どうやってツグミが運んできたのでしょう…猫と変わらない重さですね。白粉様」
『重さは、自由にかえられる…私は、妖だ』

半分は自分に言い聞かせるように言うのに、兼続は「あぁ。なるほど」と気にした様子を見せずに歩き出すのだ

(私は妖だ…)
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