第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
謙信と政宗が事情を知らないまま稽古場から出てきた頃
湖はすっかり落ち着き、喜之介と和解している最中であった
「ほんと…俺っ、悪いっ!!兼続様が親しくされているんだから、違うんだって解ってたつもりなのに…なんていうか…こう……ほんと、ごめんっ!」
「もういいよー。私もごめんね、ムカッてなって…叩いちゃって…痛くない?」
湖も喜之介もお互い気まずそうに謝罪するのを部屋の中で見守るのは、兼続、三成、それに白粉だ
縁側では信玄と幸村が腰掛けていた
小さな引っ掻き傷と赤みのさす頬に手を当てた喜之介は首を振る
「問題ない、これは…俺の自業自得だから!痛くない!」
「…痛いんだね…喜之介、ほんとにごめんね」
「いいってっ!それより、お前…足…平気か?」
見守っていた大人達がぴくりと反応した
「足」とは…?と…
するとワタワタと慌て出す湖が、喜之介の言葉を誤魔化すように
「へ、平気だよ!これは、いつもの事だしっ家康様のおくすり飲めばなのるからっ」
あからさまに動揺を見せる湖だが、喜之介はなんだと首を傾げながらも薬で治るならと、ほっとした様子を見せた
兼続の声がけで、本日の勉強会はお開きになり喜之介は部屋から出て行く
「またな」っと、白い歯を見せ少年らしい顔で
湖も、そんな喜之介に手を振って答えた
物言わぬ大人が周囲に何人もいる状態
明らかに勘付いているのは、白粉と信玄、それに三成もだろう
絶対に何かあると思っているのは、幸村に兼続だ
じとっとした目で白粉から見られる湖は、心の中で
(かかさまっ、お願いだから…黙ってってっ…!)
と、願うのだが…
「湖。見せろ」
白粉はそんな事を察しない
いや、察していても黙っていないのだ
「……なにを…?」
顔色悪い湖に三成が声をかけた
「湖様、遅かれ早かれ皆様お気づきになります。正直に話される方がよろしいかと思いますよ」
「み、三成くん…」
「湖、心配するな。喜之介をどうこうする大人はいない」
「ととさま…」
言葉に詰まる 言い訳が出てこない
「湖様、もしや…喜之介に何かされた…のでしょうか…」
こちらは恐ろしいほど顔色を青ざめている