第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
「独眼竜か…いい退屈しのぎが来るな」
「三成…あの男…参謀の役目を持ってして、よく城を抜けられるものだな…」
(なるほど…政宗さんは謙信様の相手に不足無しってことか…三成さんの方は…湖さん絡みか?)
「…佐助、お前。ちゃんと妹を見張っておけよ」
「それはどういう意味ですか?」
「……湖が恋拗らせでも起こしてみろ…あの男、大人しそうに見えて内心はどうなんだか…」
「…なんだと?信玄、貴様…今、何を言った」
「謙信…九つの女の子なんだぞ。そろそろ初恋の一度や二度ありえるだろうよ。そこにあの優男が現われれば、湖がそう思う可能性は高いと思うぞ」
「…では、石田もこちらで貰おう」
だが…
しっかり捕まれた腕は、謙信が睨んでも外れない
「謙信さまが、怒ってもだめ!三成くんにお勉強教えてもらうの!」
「…湖、」
「や・だ!」
「湖さん、ちょっと落ち着こう。ね?」
それを横で見ている幸村は焦る
湖が、謙信にたてついているのだ
しかも、三成の腕に捕まったままで
佐助はその間に入り、湖を落ち着けようとしていた
政宗は珍しいものをみると、面白そうにしている
「け、謙信様。その…いかがされたのですか?」
三成は前回も湖の教育係として文字を教えていた経緯もある
兼続は、今回もそうなると思っていたし、政宗がいるのに三成まで謙信に付き合う必要は無いのでは…とも思っていた
だから、今回は湖の意見を押すことになる
あとで後悔するとも知らずに
「某とは違った見解の知識も得られ、 湖様にはよろしいかと…」
「ほらっ、兼続もいいって言ってるよ。謙信さまは、政宗がいるでしょ。湖に三成くん、ちょうだい!」
じっと湖を見たあと謙信は、ため息をついて「もういい」と言って部屋を出て行った
「湖…お前…よく謙信様にたてつくな…怖くないのか?」
「謙信さま?怖くないよ?だって、謙信さま湖に怒んないもん」
(怒らない…?)
「謙信様が?」
幸村は意外な答えに口を開けたままだ