第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
「…北条は大人しくなったな」
「浅はかな仕掛けばかり…面白くもない…しばらくは動かないだろう」
「まだ注意が必要か…」
顕如につけていた三ツ者から、顕如が越後に入ったと連絡があった
(北条に、顕如…しっかり見ておかないとな)
「裳着」
「…?裳着…あぁ、湖のか?」
「十五の成長と同時に、登竜桜と共に祝うので良いだろう」
「…お前、考えてたのか?」
謙信の横顔を見れば、その目は湖に向けられている
「どうせ奴ら…そんな話を聞けば、押しかけてくる。ならば、政頼のところか、あの場所が適切だろう…」
「…まあな…あそこなら邪魔も入らないからな」
「ととさまー!謙信さまー!みてみて」
そう言った湖が、コロの前足を持って二足で立たせてこちらを見ている
そしてコロの片足を振るのだ
小熊が手を振っている
コロは、されるがままで
側にいた村正は、コロの腹をクンクン匂いを嗅いでいるのだ
「湖、あんまりコロで遊ぶなよー熊だって事忘れてないだろうな」
「知ってるよー。でも、大丈夫!コロはお友達だもん」
信玄の注意も受け流すように、コロに抱きつく湖
「足はずいぶん軽いようだな」
「だな。佐助が悔しがってたよ、自分も家康の薬を飲みたかったって」
「…確かに、佐助は一月役に立たなかったからな」
「おいおい…それ、当人に言うなよ」
「しっかり聞いています」
謙信と信玄の後ろに佐助が現われた
「役立たずの俺でしたので、ここ最近はしっかり仕事をしていますよ」
無表情
「…佐助、お前…表情筋が死んだのはこの頃からだったんだな…」
「失礼ですね、父上」
「……やめろ」
信玄が佐助をからかうように言えば、佐助にやり替えされ渋い顔を見せる
「何か、あったか…」
「特に今現在はやっかいな情報はありません。が、渋い顔をすることにはなると思います」
「なんだ…はっきり言え」
「石田三成、伊達政宗、両名がこちらに向かっています」
そう言えば、佐助の想定と異なった表情の謙信
面白そうに口角を上げているのだ
一方、信玄の顔はさえない