第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
湖は、喜之介をそういう子なんだと思っているし、
喜之介は、自分の掛けた言葉を無いもののようにされて臍を曲げているような状態
(…某…間違っていたかもしれません。同い年とて別性別…こどもは難しい…)
本格的に胃が痛くなりそうな予感のする兼続
(胃など、気にしたこともないのですが…こうゆう事をいうのでしょう)
一刻ほどたったとき、勉強部屋に顔を出したのは信玄だった
湖を連れ出すというのだ
もちろん、兼続は了承し二人を送り出した
見送ると、ため息交じりに喜之介をじっと見る
「俺は、誤りました…あいつが素直に受け取らないのが悪い」
つんっと、顔を背ける男児
再び、深いため出てしまう
(はぁ…困りました…)
ふと三成のことを思い出してしまう兼続
頭を振ると、
(湖様は、我らが姫様…いくら石田殿といえども、安土の彼らを頼るなど…)
はぁぁーー
この日、一番大きいため息だった
「兼続様、あいつ…なんで抱えられてるんですか?」
「湖様だ。喜之介」
「…湖、さ・ま・は、なんで歩かないんですか」
「……喜之介…お前、そのような子だとは某初めて知り申した…湖様は、歩けないわけではないがな。一時的に足がひどく痛む時期なのだ」
「?」
「お前もそのうち経験することになろう」
城下に行っていた湖と信玄
ほぼ抱えられたまま、甘味処へ行き、市へ行き…
「ととさまー。きょうは、たのしかったねぇ」
「湖の好みが解って充実した一日だったな」
甘味処では、あんこ餅より甘塩っぱい醤油を
市では、簪や着物より、小物を
何より、木々や川や花、動物に目が向くことが多く
「あの木は、花を咲かせるの?何色、良い匂い?いつ咲くの?」
「あ、猫だよ!ととさま、ぶち模様かわいいねっ!」
「あの鳥はなんて言うの?綺麗な羽だね」
「みてーかかさまと同じ白猫…でも…ちょっと太ってるね…食べ過ぎだよ、猫さん」
興味や質問のほとんどが、そのようなものだった
「ととさま」
「ん」
「あれ、ありがとうね」