第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
(お前だって、可愛いっていえばいいのか…あの時のちびだって、そうとう可愛かった…けど、同い年になって…こいつ、可愛いというか…美人ってやつなんだ…)
だが、口に出せるほど喜之介も大人ではない
「…髪の色でも黒かったら」
ため息をつきだし髪の毛を指ですく湖に、喜之介は顔色を悪くする
それを見ていた兼続は
「喜之介、言いたいことがあれば伝えよ」
「っ…」
兼続に催促されても、どう言葉にすればいいのか九つの男児には難しい
目の前の子に、「かわいい、綺麗」なんて照れくさくて言えるわけがない
「喜之介、ちゃんと誤ってくれたよ?」
なのに、彼女はそんな事に気づいていない風に首を傾げるのだ
「おまっ…」
「…?」
「おまえは…普通に、かわいい…と思う…」
真っ赤になりながらそう言えば…兼続までつわれて赤くなった
一体自分の顔はどうなっているのか?考えたくもない喜之介に予想外な一言が返されるのだ
「…ごめんね、気をつかわせちゃって」
「……は??」
「……へ…湖様??」
「大丈夫。ちゃんと、自覚したよ。でも、容姿の良し悪しだけで人は判断され無いと思うの。私は私で魅力的な大人を目指すことにしたの」
ちっとも、受け入れられない
兼続にしてもそうだ
張本人、喜之介の言葉であれば、湖に響くと期待していた
だが、彼女はその事柄についてはちっとも受け入れてくれないのだ
(まずい…早く、湖様にはご自身の容姿について受け入れていただかなければ…心配が増えるだけであって…)
兼続の心配の種が増えるだけだ
湖は、誰から見ても愛らしく見える
実際目の前にして その瞳や肌や香りを知れば、触れたくなる…
容姿だけでも危険なのだ
一方、謝罪したはずの喜之介は顔を赤く染めたまま口を紡いだ
(な…人が、恥ずかしいのを我慢して言ったのに…この女)
「さ、お勉強しよ!兼続、よろしくお願いします」
「…よろしくお願いいたします」
むっとした喜之介の声
結局、この両者
謝罪は済んだものの、競い合う中にはなりそうもない
会話もなにも、兼続に質問する以外無いのだ