第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
「俺も行く」
「幸村?」
幸村が自分から謙信に付き合うというのは珍しかった
しかも、家康が一緒だというのに
(このむかつき…当人に晴らすのが一番早い)
「……」
「面白い、幸村。貴様も来い」
三人が部屋を出て行けば、残るのは佐助と信玄だ
信玄は、残った佐助に声を掛ける
「なぁ」
昨夜ほどの事を
「「黒くない、大丈夫」…っていうのは、何の話だ」
「……誰が何か言っていましたか?」
佐助は表情が変わらない
(しまったな、もう少し前に聞いておけば良かったか…)
一ヶ月前の佐助なら、なんらか顔に出ただろう
だが、この佐助は以前の大人同様、考えが全くうかがえなかった
「湖がな、昨日寝ぼけながらそう言ったんだ…心当たりはあるか?」
「さぁ…湖さんのことだから、夢でも見ていたんじゃないんですか」
(あぁ。こっちも駄目か…やはり、湖から聞き出すしかないか)
「そうか…そうだな」
その頃、勉強部屋では…
「喜之介、こんにちは」
「…ん」
「こら、喜之介。しっかり挨拶せねばならんだろう」
「兼続、いいから。下ろして。湖も…あ、私も座るから」
「…お前、本当にあのちびなんだな…」
湖も という言葉を聞いて、喜之介は、しっかりと湖を見る
「そうだよ」
「…なら、あの時は悪かった。思ったことは本当だけど…八つ当たりだった…と思う」
「…うん。いいよ」
喜之介に、誤られれば湖は驚き目を見開いた
だが、直ぐにふわりと笑うのだ
「湖が兼続を捕っちゃったのは本当みたいだし」
「湖様…」
「それに…」
「…?」
置かれた間
喜之介が湖を見ると、湖は眉をしかめている
「確かに「湖」って自分の事をいうのは子どもだったし。喜之介の持ってた絵の人は綺麗だった」
「ちがっ、あれは…っ」
「私も、みんなに「可愛い」っていわれてて勘違いしてたところがあったし、ああ言われて気づけたところがあるから…」
いいながら、 湖の目はどこを見ているのか
まるで遠いところを見ているかのように、表情が消えていくのだ
「っ、ッ…」
(ちがう!あれこそ、八つ当たりで…っ)
だが、それこそなんと謝罪すべきなのか