第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
(一ヶ月で三つ、年をとる。たった一ヶ月で、成長してしまうんだ。心と体の調律が成り立たない場面は今後も出てくるだろう…)
心配する幸村の様子を見ながら、信玄はそう思っていた
全員が食事を取り終わったとき、広間へ現われた謙信と佐助
湖が、家康に薬学を教えて貰うというので、佐助はそのまま家康と湖に着いていった
佐助に抱えられた湖は、「じゃあ、兼続!私、ちゃんとお勉強してくるね!あとで兼続のところにも行くね。喜之介とも一緒にお勉強したいから」と手を振った
「湖様、某の事は気にせずに」
兼続はそう言い、三人を送り出すと広間の襖を閉めたのだ
くるりと振り向けば、謙信がちょうど座る頃だった
「殿、白粉殿の具合はいかがでしたか…」
「眠っていた…三日あれば回復出来ると言っていた」
「…さようで御座いますか…」
兼続が、視線を横にずらしさえない顔をしていると、今度は信玄が尋ねた
「不調の原因はなんだ?」
「…無理が利かぬ身体で、妖の術を使うのが不調の原因だと言っていたな…」
「術…巨大化や、時折使う妖術か?」
「そのようだ」
「極力」
兼続の声だ
「極力、白粉殿には普通の人ように生活をしていただきましょう。お着物も用意し、食事も睡眠も同じように…某、妖とは初めてで、知識もございませんが…せめて、人のように生活されれば」
「あぁ、あいつの着物も確かに妖術みたいだな。変化…みたいなものなのか?」
兼続の話を聞き、幸村が思い出したかのようにそう呟く
「さようでございます。一度お着物を進めて断られましたが…お体の負担をできるだけ、取り除くなら…さっそく用意をいたしましょう」
すっくと立ち上がった兼続は、止める間もなく出て行く
「……」
「まだなにかありそうな顔だな、謙信」
信玄にそう言われ、彼の顔をみた謙信は
一瞬間を置き、その視線を反らして言った
「…いや。今はまだいい」
(生かす方法については…まだ先が良いだろう…)
「そうか…何かあったらいつでも言ってくれ…湖の母者だからな…何か出来ることがあれば、やってやりたい」
「…俺も…協力します」
信玄と幸村のそれに、謙信は「時が来ればな」と答えるのだった