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【イケメン戦国】私と猫と

第26章 桜の咲く頃  三幕(九歳)


『だが、そうなれば白粉はどう生きる?
湖と共に暮らす猫になるか?
今までのように会話も意思の疎通も出来ない。歯がゆいだろうな…
それとも、人になるか?
だが、人として生きたことのない彼奴を誰が受け入れる?
嫁にでも出すか?
何も出来ない上、元妖を…受け入れる者はいるか?
居たところで、白粉が我慢できんだろうな…
あれは、飾りになるような奴ではない』

そう言う登竜桜は、眉をひそめ少しだけ苦しそうな表情を見せていた






「そうだな…」
「やっぱり…難しいでしょうか…」

城に着くのは、何時になるだろう
山道沿いの農夫達が畑に出始めた

「何を望むか…だろう」

佐助に言ったわけでもなく、謙信から漏れた声だった

(たった二ヶ月と少し…だけど、白粉さんは湖さんにとって立派な母親だ。見えないけどしっかりとした絆もある…できれば、俺だってそれをそのままにさせてあげたい…とは思う)

「…あの話は、黙っておけ」
「解りました…」

(なにより白粉さん本人がそう望まない限り無理な話だ…)




馬の足音が去って行く

森を抜けて、国を抜けて…

『いい奴らに出会えたな』

白粉の背中を撫でる登竜桜は、柔らかい笑みを浮かべていた








朝、目を覚ませば
そこは信玄の部屋だ
だが、褥に眠っていたのは湖一人
褥に手を当て、居たであろう人の体温を探す

(ととさま…)

冷たい褥
それは、ここにしばらく人が居ないことを教えてくれる

(一人は…嫌…)

人が居ない、温もりを感じない
それだけで、不安が押し寄せる
考えたくないことばかりが、頭を駆け巡る

白粉は、本当に大丈夫なのか?
信玄は、何かあったのか?病気が悪化したのではないか?

そして

(かかさまは、妖。ととさまは、仮だって…本当のととさまではない。兄さまも「兄役」だって言ってた…私は、本当はだれのこども?本当に人なの?人なのに、なんで猫になれるの?)

にゃおん

湖にしか聞こえない声
それは、鈴のものだ

鈴も不安そうに、湖の中で鳴くのだ

「っ、鈴、ごめん…ごめんね。私が変な事を考えてたら…鈴も心配になるよね…ごめん」

だが、考え始めた事を急に閉ざすのは難しい

ぽたりと、目から涙が落ちた
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