第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
兼続が「それは…」と慌てていれば、信玄が口を挟んだ
「いいんじゃないか」
「ですが…信玄殿」
「待って…何の話をしてるの?」
家康が箸を置いて三人を見る
すると、湖が笑みを浮かべ
「あのね、戦のお勉強をしたいけど。今、家康さまがいるなら、まずは薬草についてお勉強したいって言ってたの」
「…は?」
「兼続に文字教えて貰って少しは読めるんだけど、難しい文字がいっぱいだと読めないの。だからね…」
「ちょっと待って」
「家康さま?」
はぁ、とため息をつくと
「それは、俺が教えることが前提みたいだけど…教えるなんて言ってないよ」
「あ、そうか…」
そうだよねと、姿勢を正した湖は家康に頭を下げる
「家康さま、私に薬草について教えてください」
「…いやだ」
「…どーして?家康さま、ここにいる間、お暇でしょ?」
「…だからといって、そんな面倒なことどうして」
「ならば、俺と日々手合わせだ」
今まで黙っていた謙信が、酒を飲みながら家康に言う
「…断る」
「拒否権はない。二択だ。どちらかを選べ」
(なん、なんだ)
信長とは違う謙信の圧
さすが…というべきであろうが、この両者
時折、理不尽な事を平然と言い放つのだ
「…なんで俺があんたの言うことをきかなきゃならないんだ」
「まぁまぁ、家康さん。湖さんは、家康さんとお話したいことがメインだと思いますので」
「めいん?…はぁ…解った。ただし、覚えが悪いと思えば止めるし、当然俺が此処に居る間だけ…それでもいいの?」
ぱちぱちと手を叩きながら喜ぶ童は、
「やったー!兼続、家康さま、いいって!ね、いいでしょ?」
「…かしこまりました。では、そのように…ただし、湖様お一人はいけません。必ず誰かが一緒につきます!いいですか?」
湖のお膳を見れば、小皿はほぼ空になってきていた
「ところで…湖、お前一人で寝られるか?」
「え、やだよ。ととさま一緒に寝よー」
「…少し挑戦してみたらどうだ…もう九つ…」
「無理!絶対やだ。じゃあ、佐助…」
「拒否します」
「えーー?!兄さま…」
(そういえば、秀吉さんと光秀さんが言ってたな…湖の寝かた…まぁ、童の事だし…別に支障ないでしょ)
家康は、夕餉を済ませると席を立っていった