第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
妖の上、すでに死んでいる身なのだと白粉は言っていた
すでに無理はしている状態なのだ
身体に異常をきたしているとしても驚きはない
(だが、あれは湖の母親だ…仮だとしても、今は母子…不安にさせる必要はない)
そんな謙信の様子を察したのか、信玄が目配せをした
「あ、兼続。湖ね、戦についてお勉強したいの」
「戦について で、ございますか?」
「うん。あのね、どうして戦が必要なのかと、なんで戦になるのか、戦が起こるとどうなるのか…」
指を折りながら、思いついたことを言っていく湖
「でもね、なんか書庫から借りた本は難しすぎて眠くなるの」
「…さようでございますね」
兼続も手を顎に当て思案しているようだ
(…こうゆうのは三成が得意そうだな)
食事を取りながら家康は聞き耳を立てていた
(こっちの料理は安土より辛みがあるのか…でも山椒が欲しいな)
「あ、家康さん。これをどうぞ」
そんなことを思っていれば、横から差し出されたのは山椒だ
「……」
手の主は佐助だ
「湖さんから以前聞いた事があったので、家康さんは何にでも山椒をかけて食べると…」
その手から山椒を受け取ると
「あっそ……ありがと…」
しゃくだが、礼を言わないわけにはいかない
小さな礼に、佐助はぐっと拳を握って喜ぶ
「…あんた、変だよ…」
そんな佐助に不審そうな視線を送るのは家康だ
そしてもう一人
「佐助、そいつになに親切にしてんだよ」
「幸村、徳川 家康公だよ。ファンとしてはしっかりサポートをしたいところだ」
「ふぁん…さぽーと…お前、そのよく解らない言葉使う時ってよっぽどの時だよな」
まったくと、幸村は米を口に入れる
「あ。幸のご飯にさっき山椒のでぐあい確認するのに振らせて…」
「っ?!!…かっ、ぐっ?!」
ゲホゲホむせながら水に手を伸ばす幸村、そして「あ、ごめん」と悪気を感じられない佐助は幸村に水を注ぐのだ
そんな二人を横目に、山椒をかけ食事を食べていれば…
「でね、家康さまにもお勉強おしえてもらいたいの」
「…は?」
「なんと…っ、いや、確かに徳川殿の薬学は一目置くところは御座いますがは…」