第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
「戦をするには、理由がある。信念がある。そして守りたい何かがあるんだ。その守りたい物は人によって異なる。だから戦は起きるんだよ」
「守るために戦が起きる…」
「まぁ、中にはそうじゃない奴らもいるけどな…己の私利私欲、理想…純粋に守る為の戦ってのもあるのは事実だな」
信玄の言葉に続くよう、幸村がため息混じりで吐き出した言葉
両方戦についての話ではあるが、一方は守るため、一方は欲の為だと言うのだ
そこへ顔を出したのは、佐助だった
「あ、湖さん。兼続さんが、着物が出来たからと、湖さんと白粉さんを探していたよ」
「着物?…!あ、あの反物のだ」
「見に行くか?湖」
「行く!」と白粉に言えば、白粉は湖を抱き上げる
「…そろそろ城に着くぞ」
そう言うと「解った」と謙信が答えた
部屋を出ようと歩き出せば、抱えられた湖が謙信達を見て口を開いた
「決めた!私、戦がどうして起こるのか…それを教えてもらうことにする!きっと全部は理解出来ないけど、知らないまま「嫌いだ」って言うのは違う気がする」
そう笑みを浮かべて
九つの子どもは、そんな事を考えただろうか?そう信玄が思っていれば
「…あまり根詰めるなよ」
謙信はフッと笑って答えるのだ
「はい、謙信さま」
にこりと微笑む湖に信玄は思う
(…記憶が無くとも、湖は湖だな)
白粉と湖が去り、部屋に残ったのは謙信、信玄、幸村、それと先ほど加わった佐助だ
佐助は、部屋に入るとすぐに報告を始めた
信長と家康が、領地に入りそのままこちらに向かっていることを
「ですが、白粉さんの方が早かったですね」
「まさか…あの男が来るとはな」
信玄が苦笑すれば、幸村は眉をひそめる
「…湖の事が無ければ、こんな機会逃さないのに…」
「それは言うな」
これから自分の目の前に座るのは、自分達から国を奪った信長だ
湖の言う「ともだち」「なかよく」なんて、そんな感情はこれっぽっちもない
あるのは…怒り…憤り…
だが、信玄はそんな心情を表には出さない
(俺は…まだまだ信玄様にたどりつけないな…)
幸村は信玄の横顔を見ながら息を吐いた