第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
一息で、話切ろうというような勢いの兼続
佐助は、話の途中で片手を挙げて待っていた
「鈴なら朝方俺の部屋で寝ていました。今は、おそらく謙信様の部屋に居ると思います」
「鈴…そうでしたか…良かった。猫のままでしたか…」
はぁーーーと安堵の息をついた兼続のその様子に、佐助はありのままは話さず、謙信の事だけを伝える
「いや、結構。居場所とどちらの姿なのかが解れば良いのです…ですが、そうですね。湖様のお着物はお持ちすべきか…ありがとうございます、佐助殿」
兼続は安心した表情のままで佐助の部屋の襖を閉め去って行く
「…寝衣と、着物…いや。襦袢と着物でいいか…とにかく各部屋に置いておくようにしよう。信玄様の部屋と、此処と、謙信様…幸村のところには行ったことはないようだけど、一応用意しよう。うん。早急に」
そう言った佐助は立ち上がり、白粉と湖の部屋へと足を進めたのだった
さほどしないうちに、兼続の足音が春日山城を響かせるのはすぐのこと
謙信の部屋で、裸のまま寝衣にくるまって膝の上で眠る湖を見てしまったからだ
ドタバタと駆け湖の着物を抱え、佐助がやろうとしていたことを済ませてしまう
まずは、謙信の部屋に今日着る湖の着物を届け、信玄、佐助、嫌がる幸村の部屋にも予備の着物を置いていく
「湖様のお着物…本日、仕立屋に多量に注文せねばなりませぬ!」
(あんな…あんなに無防備に…某、頭どころか…胃が痛くなってきまする…)
湖、九つの朝二日目の事だった
そして、しばらくの間は九つの湖の様子見のため自由にさせていた兼続
とにかく朝は気が抜けない
朝起きる場所が多いのは白粉と信玄の側だ
この二人はもう勝手を解っているかのように、普段通り振る舞う
(ここ数日…白粉殿二日、信玄殿二日、佐助殿一日、謙信様一日…はぁ…)
頭を悩ませる鈴の夜歩き、湖の人肌好き
それを除けば、九つだとは思えないほど物の揉み込みも早く、頭も回るのだ
(とにかく…無頓着、無防備さえ…それが一番心配です)
目の前で、顔をしかめながら立ち上がろうとする湖の身体を支え補助する兼続からため息が漏れた