第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
夕餉の時間
湖の御膳をみた信玄と白粉が関心したように「考えたな」と声に出す
それは、何枚もの小皿にいろんな種類の総菜がのったお膳なのだ
本当に一口ずつ
だが、味が違えば食も進む
湖は、ひと皿終われば、次の皿に、また次へ…
そう順調に食べ進めていくのだ
「今日立ち寄った茶屋の亭主から良いことを教わって」
と佐助が、それについて説明をする
結局時間はかかるが、湖は御膳の上にあった物をすべて食べたのだ
「お腹…くるしー…」
とはいっても、並の量だ
決して多くは無い
それでも、それだけ食べた湖に謙信は機嫌が良い
「よく食べたな」
「謙信さま、すこし多いよー」
「別に多くないよ。普通。あれくらい、食べれるようにならないといけないよ」
「…兄さま、意地悪。私、毎日あんなに食べてたら招き猫になっちゃうよ」
ぽんと頭に浮かぶのは、白くふくよかな猫の形
幸村のツボにストライクだったようで…彼は、ぱんっと音を立てて口を塞ぐとお腹を抱えてうずくまった
ツボにはまったのは、もう一人…佐助だ
「…兄さま?」
だが、こちらは解りづらい
無表情のまま固まって、笑いのツボがさるのを待つのだ
赤の他人には全く勘付かれない佐助のこれ
だが、白粉と湖は別だ
白粉が湖の耳もとで何か言えば…
湖は、にまっと悪そうな顔をして左手を握ると…
「にゃん、にゃん」
と招き猫のまねをするのだ
「っぶーーーーっ!!」
すると、佐助が息を吐き出し笑い出した
声を上げずに半泣きだ
楽しい夕餉の時間が過ぎ、湖は信玄の胸を見る
昨日おまじないをしたばかり
煙のような塊は、薄い煤色だった
(大丈夫…ちゃんと、お守り効いてる…あと二回。考えてやらないと…)
その晩、湖は白粉と共に褥の上で…両者猫の姿で丸まって寝ていた