第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
信玄が幸村と共に戻れば、湖は再度今日の話をし…
そして信玄から土産を貰う
可愛らしい桜の柄が掘られた櫛を
「わぁ…ありがとう、ととさま」
「謙信の贈り物には敵わないが、女の子には必要な物だろう?」
「嬉しいよ、すごく、嬉しい」
ふふっと櫛を見ながら笑う湖は、楽な姿勢で座ったままだ
元気なのだが、動かない
あのバタバタと好きなように走り回っていた童とは違うのだ
「湖、歩けなくて退屈はしないか?」
「まだ二日しかたってないんだよ?退屈しないよー。それに、歩こうと思えば歩けるもの。ただ少し痛いだけだよ」
そう言いながら立ち上がると、「っんーーっ、やっぱり痛いっ」とおどけてそう言う湖を信玄は、抱えるように自分の膝の中へと座らせる
広間で夕餉の時間前
此処には、信玄、幸村、白粉、湖の四人が揃っていた
遅れて、佐助、謙信、兼続が来る予定だ
「ところで、湖…今日はお手柄だったそうだな」
「おてがら?」
「お前、動きのおかしな人間を見つけたんだろ?やっぱり子どもの視点は少し違うんだな」
信玄の言葉の一部が理解出来ず、首を傾げていれば、幸村が横から付け足す
「あ。農夫さんのこと?湖ね、前の幸と光秀さんの事、ちゃんと反省してるもの。変だな?って思ったら、言うことにしたの!あとで後悔するの嫌だから」
「…そっか。ちびすけ、えらいな」
「またそれ…もう「ちび」じゃないよー」
「まだ九つだろうが」
「…そうだよ、まだ九つなんだから。幸、小さい子に優しくしようね」
「な…」
九つにもなれば、黙ることはない
女の子の口は達者だ
っぷ、はは…
信玄と白粉が二人同時に笑い出す
つられて湖も、へへっと笑う