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【イケメン戦国】私と猫と

第26章 桜の咲く頃  三幕(九歳)


春日山城から、謙信の馬に乗せられ、佐助と共に進む道
湖は、謙信に尋ねた「さっきのなんですか?」と
越後縮(えちごちぢみ)、謙信が手がけ広げた青苧(あおそ)を原料に作った糸から麻糸でつくった織物だ
安土、信長との協定の元
境でその名を広げ、今着々と生産流通を広げているのだ

「湖さん、越後で作られるている着物の生地だよ。夏には、涼しくてとてもいいんだ」
「着物?」
「ああ。その原料、カラムシを見に行く」
「虫…?!」
「あぁ、違う違う。植物だから大丈夫だよ」

天気の良い、雲一つすらない晴天
馬に乗れば、木々の香りや風の音、鳥の声、ひどく心地が良い

少し進めば、静かに目を細めて風景を楽しむ湖の様子に謙信が頬を緩めた
自分の前にすっぽり収まる女子は、やはりまだ童だ
背丈やふとした表情は大人の湖を思い起こすものの、腕の中の収まりは全く違う
やはりまだ九つなのだ


ぐー…


小さな音が聞こえて、湖がはっとしたように背筋を伸ばす

「私、お腹すいた」

えへへっと笑った湖に、佐助が「あぁ、そっか。起きたばかりだったね」と言い、程なくしてたどり着いた茶屋で腹ごしらえとなった

湖には蕎麦を、佐助は茶を、謙信は酒を
おいしそうに食べる湖ではあったが、器の半分もいかない内にもうお腹がいっぱいだと言うのだ

(食が細いのか…)

満足そうな彼女を連れ、茶屋を出てしばらく進めば、青々と茂った畑が見えてきた

「あれが、カラムシだよ」

佐助がそう言う
小高い丘の上から下を見下ろせば、一区画毎整備されたの畑がずらり
そこに生えているのは大人の背丈ほどある青々とした植物だった

「大きいね…あれが、着物になるの?」
「あれが、糸になる。そして、糸から着物を作る」

後ろから教えてくれる謙信に「そうなんだ」と、湖はまじまじと収穫する農夫の様子を見ていた

「問題はなさそうだな」
「そうですね、最近。この辺に現われたと報告がありましたが…とくに異常は感じられませんね」
「?」

謙信と佐助の会話は、まったく湖には解らない
特に追求もせずに、先ほどまで見ていた農夫に目を移せば…

(あれ…?あの人…)

その手に持たれているのは火種のようで

「兄さま、火は必要なの?」
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