第26章 桜の咲く頃 三幕(九歳)
棒のような足
昨日も湖を抱き上げ気づいていたが…これは本当に心配になるほどだった
「いや。これは改善しなければならないな…それと、鈴だと痛くないっていうのは、どうゆうことだ?」
「昨日ね、鈴になってみたの。そしたら、別に普通だった!お散歩して、とと様のところに来ちゃった」
へへーとちょっと自慢げな娘に、信玄はその表情を合わせながら内心は別の事を考えていた
(昨日は自分の…湖の意思で俺のところに来たって事か…じゃあ、この身体の調子の良さは鈴ではなく、やはり湖がしている事…)
「…湖」
信玄が、続きの言葉を紡ごうとすれば廊下をバタバタと走る音
間違いなく兼続だ
「また来た…」
幸村もため息を零すのだ
ただその足音は、少し異なり…複数のもの
「湖様っ、白粉殿とお着物を持って参りました!とにかく、まずお着替えをっ!」
「…引っ張るな」
そう大声と共に、外に出されたのは信玄と幸村、そしてはーはーと息をする兼続だ
「兼続よ…俺も寝衣のままなんだが…」
「っ!も、申し訳ありません!ですが、少々お待ちを…っ!」
「あぁ。まぁな、いいさ」
焦る兼続に苦笑しながら、信玄は縁側に腰を下ろし片足をあぐらのように組む
そしてその足に肘をつくと、手を顎に添え物思いにふけるように考え込んだ表情を見せた
(…聞けなかったか…だが、聞いたところでまた黙りだろうな…やはり、あの土地神に口止めされていると考えるべきか…だが、どうやってこの身体の調子を整えているんだ…)
一方、部屋に入れられピシャリと襖を閉じられた二人
白粉は着物を手にため息を漏らし、湖は「兼続…なんだか、騒がしいね」と首を傾げた
「さて、まずは着替えるか」
「そうだね、兼続。着替えないと、ずっと騒がしそう」
「痛い」と口に出すことは無いが、白粉に支えながら立って着物に着替える湖は時折顔をしかめた
昨日とは異なる着物で黄色いその色は、まるで菜の花のようだ
それに、昨日の緑色の帯
着替え終わると、湖の楽な姿勢に座らせてやった白粉
「かかさま、ありがとー」
「いや。問題ない…この帯、楽か?」
「うん。すごく楽だよー」
「そうか…では、兼続に似たようなのを少し頼むか」
「うん!」