第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
ふふっと笑う湖が、秀吉の方へ手を伸ばすが…
それは幸村によって遮られる
「湖、お前…ほんと誰にでも懐くなよ」
「幸…なんで?秀吉さま達とは、おともだちなんでしょ?別にいいでしょ?」
「よくねーよ」
ふんっとそっぽを向く幸村に、秀吉は苦笑し後ろへ下がっていく
光秀の横に戻れば、光秀はにやり意味深な笑みを浮かべた
飯山城へ着く前に、白粉から代わって信玄に抱かれていた湖
その湖を飯山城当主の高梨が食い入るように見ていれば、その視界は謙信に妨げられる
「…見るな」
「っ!!謙信様!!はっ…いやいや、見ておりませぬっ」
「今、間違いなく見ていただろう…厭らしい目で我が子を見るな」
白粉のあの禍々しい気配に高梨の背筋が冷える
「お、白粉殿…」
「白粉、その辺にしておけ。そのじじぃには、酒を用意してもらう必要があるんだ。まだ寿命を縮めるなよ」
それに信玄が面白がるように口を挟めば、佐助が「そうですね」とつらっと声を出す
その主に、また高梨が凝視すると…
がっくり肩を下げるのだ
「さ、佐助殿…大人に…大人になられてしまって…」
露骨に残念がる表情を隠さない高梨に、幸村が笑う
「佐助、お前。良かったな、くくっ…どうやら、あいつの興味外に出たみたいだな」
「…幸村。君も一度子どもになってみたらどうだい?今度、登竜桜様にお願いしてみようか…」
「断る」
「俺より、俄然高梨殿好みだと…」
「冗談じゃない…寒気が立つ」
馬を引き取ると、佐助の馬に猫の姿で白粉が、信玄の前に湖が抱かれて乗った
そして、山道の分かれ道で
「では、俺たちは安土に戻る」
「世話になった」
そう言い、秀吉と光秀が別の道の方へ馬を向けた
「しばらく誰も来させなくていいぞ」
信玄がそう言うも、秀吉は「悪いな」と言葉を返す
「俺たちと入れ替わりで、家康が行くことになっている。おそらく書面がもう届いている頃だろう」
「…迷惑な…」
だが、受け入れると約束を交わしている以上、拒否は出来ない
「湖…また今度な」
秀吉の悲しそうな笑い顔
(その顔は…見たことある。前もそんな顔していた…)
それは、湖を見る秀吉が時折する顔だった