第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
『招こう、客人』
桃色の髪が風になびけば、湖と似たような花の香りが漂ってくるのだ
「おかか様」
「さくらさまぁ?」
目を細めた女は、赤い薄い唇を開き笑う
『おかえり…我が子たち…』
桜の古木、小動物たち、赤い敷物に運んできた酒を並べ座る武将たち
高梨の酒を一口飲むと、先に用をすませようと佐助と白粉、それに今起きたばかりの湖を連れてその場を離れていく登竜桜
「酒を…」
「ご用意しよう、謙信殿」
座った謙信の横に、酒坪を持って膝をつき座ったのは光秀だ
「…」
「そう邪険な顔をせずとも俺は、このあと安土に戻る。あと少しの付き合いだ」
「貴様は、本当に読めぬ狐だ…」
くくっと、笑った光秀から酒を注がれると謙信は離れていく登竜桜たちの方へ目を向ける
同じく目を向けるのは、信玄に秀吉
「もう九つか…」
「まだ九つだろ」
成長をずっと目の前で見守っている信玄、そして今はずっと側に居られない秀吉
思うことはそれぞれ違うよう
『さて、起きたのなら白粉から降りろ。湖』
「うん。あ、湖のおきもの…」
『いい。どうせ直ぐに大きくなる。そのまま羽織ってさえ居ればいいだろう』
登竜桜にそう言われ、「はーい」と手を上げる湖に佐助が注意する
「湖さん、前。ちゃんと合わせて」
「こう?」
「そうそう」
羽織を交差させ、胸の前で手を押さえると佐助は頷くのだ
『まだ気になるような身体でもないだろうに…くく…』
「…そうではなく、兄としてです」
『まぁ、いい。理由など別に聞いておらんだろうが…』
佐助の回答に、笑いを抑えない登竜桜は『さて、まずは…』と、白粉の額に指を差す
すると、前回同様桜色の光が白粉を包み込む
「…ありがとうございます。おかか様」
『あぁ…それにしても…お前、本当にこの一ヶ月でさらに人間くさくなっているな』
「そう…なのですか?」
無自覚の白粉に、笑みを漏らした登竜桜は彼女の頭を軽く撫でた
『…実に面白い。さて、次は佐助だが…どうする?』
「では、十七で。お願いします」
『お前も、ほとほと面白いやつだ…解った』
桜色の光が収まれば、佐助の身長がまたぐんと伸びるのだ
そして…
「にーさま!すごいっ、大きい!」