第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
何度目になるのか、もうすっかり見慣れた
部屋に連れ戻されるその様子に信玄は苦笑する
部屋に戻れば
当然、白粉から説教を受ける湖
だが、今回は未遂だ
「お守り」の回数は守られていた
明日、また登竜桜のところまで行く必要がある
其れを踏まえ、白粉の小言も長くはならないのだ
六歳の最後の夜
湖は、夕餉も取らずに寝てしまった
その寝顔を白粉は優しげな眼差しで見ていた
そして、九つになるために春日山城から出る朝
「なりませぬ!」
「なんで?湖、もうのれるよ!じぶんのうまでいく!」
「近場なら許しますが、遠出になりまする!絶対に許可致しません」
謙信、信玄、幸村、佐助、そして佐助の前に乗る白猫
それに、秀吉に光秀
七人はすでに馬上だ
そこから見下ろしたところで、ふくれっ面の湖と、馬の手綱を離さない兼続が居た
『湖、いい加減にあきらめろ』
猫姿の白粉にそう言われても引かない湖
「湖さん。はい、これ」
そんな白粉の後ろでゴソゴソと巾着を取り出したのは佐助だ
そこから微かに香るのは…
「っ?!にーさ・・」
煮干しと鰹節の香り
着ていた着物が落ちれば、兼続を足場代わりに駆け上ると白粉の横に飛び乗る
そして
にゃーにゃ、にゃーにゃ!!
ちょうだい、ちょうだいと佐助にせがむのは鈴だ
『なるほどな』
「これが、一番だと思いまして」
『用意がいいな』
「佐助、誰か他に…っ」
「居ないよ、幸。ちゃんと確認してる」
巾着に顔を突っ込む子猫
兼続は「気をつけてくだされ」と佐助に湖の着ていた着物を渡し、皆を見送ったのだった
ゆっくりと進む道中
佐助の横には、幸村がついた
「おい、鈴のやつまだ食ってるぞ」
「子猫だからね、食べ盛りなんだよ…あ、でも。満足したみたいだよ」
巾着から出てきたのは満足そうな顔
髭についた鰹節のカスをふるふると頭を振って払い、満足だと一鳴きした
そして丸まっている白粉に、ちょっかいを出し始める鈴
そんな鈴に構う様子を見せない白粉は
「…白粉さん、もしかしてもう酔ってきましたか?」
『…解ってって聞くな』
白粉は、馬に酔う
前回も同様だった