第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
翌日
湖が光秀と幸村と乗馬に出て帰れば、部屋に居たのは不機嫌そうな白粉と、そんな白粉の視線から喜之介を隠すようにいる兼続
そして、居心地悪そうに顔色を悪くした喜之介だ
「湖様、お帰りなさいませ」
「えっと、ただいま…かかさま、きのすけがこわがってるよ?」
「こっ、怖がってなんかいるか!!」
湖のこれに、すぐに声を上げたのは喜之介だ
そんな彼の表情を見て湖は、きょとんとした表情をし、それからクスクス笑い出した
「むりしないほうが、いいよー。かかさまのこれ、こわいの湖もわかるもの。かかさま、それやめて?」
「…こやつが、詫びをしたら止めてやる」
「もー。それ、もういいっていったよー…え?かねつぐ、もしかして、それできたの?」
眉間に皺を作りながら困惑した表情を見せる湖は、部屋の入り口で立ち止まったままだ
「ってか、お前!兼続様を呼び捨てにするな!」
喜之介は、湖を睨めば声を荒げた
湖は、首を傾げて「んんー」と言うと白粉の方へ進みながら
「…かねつぐ、さま」
「っ、湖様!おやめくだされ!!某にそのような敬称不要で御座います!!」
「だって、きのすけが…」
喜之介は、兼続のそんな様子に驚いているようだ
「湖、二人はどうした?」
「ゆきと、みつひでさま?なんかねー。みつひでさまのあとを、ゆきがおっかけていった?すぐそこまで、ゆきむらがおくってくれたんだけど。ゆき、いそがしそうよ」
「そうか…今日は、どうだった」
「たのしかったよー」
湖が白粉に抱きつけば、白粉から先ほどまで出ていた痛々しい…禍々しい気配が消えた
兼続はそれに息を漏らすと、「喜之介」と少年に声をかけた
「っ、悪かった…と思わなくも無い」
「喜之介」
「…言った言葉は訂正しません。でも、年下のこどもに当たるのは間違ってた…と、思う。だから…わるかった…」
はじめは兼続に言うように、最後は湖の方を向いて小さな声でそういう男児
「…きのすけは、いくつなの?」
「……」
「九つ、もうすぐ十に成ります」
答えない喜之介の代わりに兼続が答えれば
「じゃあ、もうすぐおなじになるんだね」
「はぁ…?お前、なに言って」