第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
「湖も…わたしも、わるかったんだとおもう…」
「湖?」
「ととさまや、みんなが、かわいいっていってくれるからかんちがいしての、よくわかった」
「「「ん?」」」
誰と誰の声が重なったのか、湖を囲む大人達は何を言っているのか理解出来ずにいる
「かみって…おおきくなったら、くろくなるのかな?くろくなったら、すこしは…かわいくなる?」
「髪を黒くしたいのか?」
湖を膝に乗せた白粉が尋ねれば、湖は白粉を見上げるようにして答えた
「あ、あのね。湖…えっと、わたしはね。かかさまみたいに、まっしろのかみもすてきだとおもうの!でも、まっくろなかみとめが、びじんなんだっていうなら、湖もくろいほうがいいのかなーって」
「…私には、人の美徳はわからんが…湖の髪も目も透き通るような色で、そのままがいいと思うが…」
「…っ、かかさま!だいすき!!」
「ちょっと、ストップ!湖さん…」
武将達が黙る中、声を上げたのは佐助だ
「なぁに?にーさま」
「ちょっと、いいかい?一般的な視点からいっても、湖さんは可愛いよ。その子が、どういうつもりでそう言ったのかは解らないけど、気にする必要は無いし、髪も目もそのままで十分だよ」
「にーさまも…ありがとう」
はにかみ笑いをする幼子は、一切佐助の言葉を受け入れていないようなのだ
引き続き幸村や、信玄、秀吉が何を言っても湖の表情は変らない
よほど衝撃的だったのか、すっかり男児の言葉を受け入れているのだ
「…兼続、その男児…すぐに探せ」
「しょ、承知いたしました」
謙信の冷え切った目が兼続に突き刺さる
兼続は、早速とそのまま部屋を出て行ってしまった
「けんしんさまっ、あの…」
「お前が心配するような事はしない…そんな顔をするな」
謙信は、立ち上がると湖の頬をひと撫でし部屋を出て行く
「…はぁーーー…湖、今一度言うが…なにか理由があってお前にそう悪態をついただけで、お前自身は可愛いに間違いはないんだ」
「もういいよー、ととさま。湖は、ととさまたちに、かわいいっておもってもらえるだけで、うれしいもん」