第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
秀吉は部屋に入らない白粉の様子に、警戒しているのだと気づき
極力自然に距離をとって座った
部屋の入り口に白粉が立ち、座ってる二人を見下ろすような形だ
「そう…警戒しなくとも、お前に手出しはしない。上杉とそう約束したからな」
「…詮索もだ」
「解っている」
ふっと笑う秀吉に他意はない
だが、光秀は…
「確かに…猫の処置はよく効いた。おかげで…この通りだ」
そういい肩の傷を見せた光秀
(…こやつ…)
光秀は「猫の処置」といい「薬」とは言わなかった
ぴくりと眉を動かしたのは白粉だ
「詮索はしない約束だったな。礼を伝えといてくれ」
「なんだ?自分で言えばいいだろう。どうせ、9つになる際、着いていくんだ」
「そうだな」
(湖が来たことに気づいているな…何をしたかもおそらく)
「口外も詮索も、一切するな」
そう言い白粉は引き返していくのだ
(面倒な奴だ…気をつけねばな…)
ふぅと、ため息が漏れた
「釘を打たれたか」
「…お前、変な勘ぐりはするなよ。これ以上湖に嫌われたり警戒されるのは、俺はごめんだぞ」
「問題ないだろう。今の湖なら、すぐに餌付け出来る」
「…お前な…」
はぁっと、今度は秀吉のため息が聞こえたのだった
その夜、夕餉の時刻に光秀と顔を合わせた湖は、幸村に伝えたのと同様のことを光秀に伝え、謝った
答えは、やはり気にするなというものだ
白粉が側にいた事もあり、あの夜の事は口を噤む
(まぁ、また機会はある…)
傷の癒えた光秀は、秀吉と共に兼続の御殿へと帰って行った
その次の日から、湖と秀吉と光秀の距離がぐっと縮まったかのように三人はよく顔をつきあわせていた
それを見た謙信が、不機嫌な顔を見せどちらかを連れ去って行くのもしばしば…