第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
「明智様より、白粉様へ。昨日は良き薬を…と礼を預かって参りました」
「みつひでさま、おけがは?」
「もう問題ないと仰っておりましたよ。良かったですね、姫様」
「ひめ?」
「ふふ…。はい、湖姫さま」
湖は小首を傾げる
女中は、くすりと笑うと白粉に頭を下げ下がっていく
(やはり…心地よすぎだろう…ここの者は、私を妖だという事実を忘れているのか…)
「湖、ひめだって。かかさま」
「そうだな」
(明智 光秀…わざわざ言伝を持ってきたのは、何か言いたいことがあるからか)
「湖、信玄の部屋で待っていろ。私は、明智の様子を見てくる」
「湖もいくよー」
「…様子を見たいのは解るが、万一にでもお前の事が勘付かれていると面倒だ。我慢しろ」
「あ…そっか…うん。湖…そうだ。ゆきに、いいたいことあったの!うん。ととさまのおへやにいくねー」
(ゆきに…きのうのこと、あやまらなきゃ…)
湖が、思い出したのは昨日の草むらの事
気づいて直ぐに、伝えれば良かった
後悔止まないのだ
白粉は、光秀の部屋へ
湖は、信玄の部屋へと二人は別れて歩き出した
その湖は、信玄の部屋につく前に幸村と会うことになる
「あ、ゆきー。さすけにーさまもいっしょだー」
「湖」
「湖さん」
幸村と佐助は縁側に腰掛け、なにやら読んでいたようだ
すでに折りたたみ始めていた書状を懐にしまった幸村
佐助は、手を振って湖に答える
「にーさま、きょうはおかげんいいの?」
「良いというよりは、この痛みにだいぶ慣れてきたってところだな…昨日は大変だったね、湖さん」
「たいへんだったのは、ゆきとみつひでさまだよ」
「お前もだろうが」
ぽんぽんと頭を小突かれるが、幸村は笑っている
「あのね、ゆき…きのう、湖。きづいてたの。なんかうごいてるなーって…すぐにおしえなくて、ごめんなさいっ」
「…お前が誤ることじゃねーだろ。俺こそ、怖い思いをさせて悪かったな」
ぶっきらぼうな幸村の回答