第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
後ろには、開ける童
前には、色香漂う妖怪
兼続は手の届く、白粉の着物の前を強引に合わせ、その場に脱力した
「…兼続…いつから居た?なにか用があったのか?」
はぁーと耳を赤く染めた兼続が息をついた
「あまりにお二人が起きてこられないので、某が様子を見に来れば…室内から湖様の暑がる声が聞こえて部屋に入らせて頂きました」
「…そうか…あつい?」
「そうだよ!かかさま、よんでもおきてくれないし、おててはなしてくれないし、湖、あせだく」
確かに心地よいものを抱きしめては居たが、起こされた覚えは無い
一歩譲って気を許している湖に気がつけなくても、兼続にも気づかなかった
白粉はようやく頭がさえてきたのか、顔色を悪くして額に手を当てた
「白粉殿?」
「いや…悪かった」
(私は…この城に住み始めて弛んでるな…気をつけねば…)
自分自身もそうだが、近頃、この城のものは白粉が物の怪だと言う事実を忘れているかのような態度
(…居心地が良すぎるのだ…)
「かかさま、おなかすいた」
「ん…そうだな」
(居心地が良いというのは…くすぐったくて…おかしな気分だな…)
湖の方に向けた白粉の笑みに、兼続は驚き目が離せなくなる
穏やかで色気のある女の笑みだった
(な…いやいや…)
「兼続、悪いが湖に食事を用意してくれるか。ところで、今は何時なんだ?」
「すでに陽は真上に御座います。食事の用意はお二人分出来ていますので、こちらにお持ちします」
そういつもより早口で伝えて部屋を出て行く兼続の手足は左右同じ方が前に出ている
「かねつぐ、へんなあるきかたしてたねー。へんなのー」
あははと、笑う湖の着替えを手伝い
自らの着物は変化自在のように新たな着物に替える
「湖のきものも、かかさまみたいに「しゅっ」てかえられたら、らくちんなのに」
「ふふ…。私は妖、お前は人間だ」
「いいなー。湖もあやかしがよかった」
まもなく食事が運ばれ二人が食事を済ませると、女中が言伝を預かって現われた