第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
(何かあるとは思ったが…あの土地神に関連しているのだろうな…)
「…さて…どちらを問い詰めれば口を割るのか…見物だな」
面白い物を見つけたように、口角が上がる光秀
月を見上げてから、部屋の奥にある鉄砲に目を向ける
「だが…」
(あれに興味を持つのは予想外だ…こどもの興味範囲は計り知れんな…)
「気をつけねば、秀吉の小言を聞く羽目になるな」
光秀に見送られている
そんな事は一切気づかない湖は、気配を殺しながら足を運んだ
そこは信玄の部屋だ
(かかさまにはだめっていわれた…けど…)
にゃぁ
小さく鳴けば、部屋の主がいつも招き入れてくれる
だが、今日湖を招き入れたのは…思いもしなかった謙信だ
みぁ?
湖は、あれ?どうして?という表情を浮かべ首を傾げた
「…湖だな」
み…っ
(…なんでわかるんだろう…)
「湖?」
続けて聞こえたのは、目的の人物信玄の声だ
湖は、じっと信玄の方を見る
胸元の靄は…
(はいいろ…くろくない…まだだいじょうぶ)
今夜は、謙信がいるのだ
あきらめなければならない
湖は、短く返事をすると襖を開けてくれた謙信の膝の上に飛び乗った
「お前、こんな時間に何をしてるんだ?」
みゃ、にゃん
信玄が問うても、猫の姿の湖は特に戻ろうともせず軽く鳴くだけだ
「…よからぬ事を考えてはいまいな…」
(よくないことでは、ないと思う…「おまもり」はおけがや、びょうきをなおすものだし…あ、でも、てっぽうは、よくないのかも…)
んーーーにゃ、にゃぁ…
首をひねって答える湖に、謙信はため息を一つつくとその身体を持ち上げた
そして…
「自分で戻る気は無いようだな」
にゃあ!
(いろいろきかれるのは、こまるもの。ねこのままのほうがいい)
一行に戻る気配のない湖に、謙信はもう一つため息を零すと、ふわりと柔らかい毛に包まれた口元に口づけを落とした
(え…?)
そうすれば、湖の身体は猫から人へと変るのだ
「…どうして?」
驚いた表情を浮かべる湖は、脇に手を入れられ謙信の膝に跨がる体制だ
「戻す方法があると言うことだ」