第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
「あんなの教えるのは、一人しかいないだろうが…」
一緒に来た幸村はため息交じりで答える
言われている当の湖は、
「仲良しになるおまじない!」
えへへと笑って、二人を見るのだ
「っ、、、?!け、謙信様っ?!」
兼続は少し呆けた後に謙信の姿が視界に入り、慌てて背を正す
一方政宗は、湖の顎に指をかけると…
「ふーん…湖、今度はこっちにしてみろ」
と、湖の唇を軽く親指でかすめにやりと笑う
「おくち?おくちはだめだよー。ととさま、おまじないは、ここって言ってたもん。おくちは…あれ?おくちはなんだっけ??んっと…とくべつなの!」
「湖…こっちに来い」
後方から聞こえた声に、政宗の手を外し振り返った湖
「あ、けんしんさま」
その姿を視界に捕らえると政宗に背を向け、謙信の元に駆け寄る湖
それを見て政宗は小さく舌打ちした
謙信は湖を抱き上げ、政宗の方に顔を向けた
「独眼竜…いい稽古相手だった。次回があれば、次は真剣で手合わせだ」
わずな殺気を込めたような視線、だが口角は上がり高揚感をうかがえた
「楽しみにしている」
と政宗もそれを受けて立った
「じゃあな」
そう言うと、政宗は馬に乗って駆けて行ってしまった
湖は、その姿が見えなくなるまでずっと目で追っていた
「…湖」
「まさむね、行っちゃったね…」
「寂しいか?」
謙信の問いに頭を横に振る湖
「さみしいけど、湖にはけんしんさまも、しんげんさまも、ゆきもいるもん。あと、かかさまと、にーさま。それにかねつぐに…みつなりさまも、まだいてくれるもん」
ぎゅうっと、謙信の首に手を回して抱きつく湖
その瞳が涙で潤んでいるのが解る
「兼続、湖は今日も筆か?」
「いいえ。本日は、異国の書物が手に入りまして、某と石田殿はそちらを確認したいと思っております…それゆえ、本日湖様は休息日でございます」
三成は兼続と目が合うと頷いて見せた
「おべんきょう、おやすみ?」