第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
それから白粉は、自分の事を話し出した
湖と鈴のお目付役として、母役を与えられたことを
今は登竜桜から与えられた仮初めの時間あり、あと期間はあと5ヶ月だと
「湖が育つまで…それまでは、母親でいさせてもらう…これは、私の自分勝手な望みだ。なんと言われても仕方の無いこと…だが、湖の耳には入らないようにして欲しい…まだ今は…」
改めてその場にいる武将達に頭を下げる白粉
「頼む」
小さな猫を膝に乗せたままで
「私は…この娘が愛おしい…大切な娘だ」
ふわりと微笑む白粉の頬に赤みがさす
それは
「間違いなく母親だな」
信玄が膝に肘をつき白粉を覗き見る
「…そうですね。貴方が湖様を攫った事実は変らない。ですが、それは湖様の為であり…こうして湖様が笑って過ごしておられるんです。感謝しております」
「湖があれだけ懐いてるんだ…間違いない」
三成は優しい笑みを見せ、政宗はにやりと口角をあげた
「だが、成長した後はどうするんだ…?」
成長した後…
白粉の仮初めの時間が過ぎた後、それを後で知り、その存在を失った湖はどうなるのか
「…消すつもりだ」
「白粉さん、それは…俺は納得いきません」
「何の話だ」
白粉の表情は見えない、下を向いて子猫を撫でているのだ
佐助は批難するように声を出した
謙信はそのやりとりを見て会話をとめるように言葉を挟む
「…白粉さんは、湖さんが成長した後、自分に関する記憶を消されると言ってきかないんです」
「本来ならもう存在していない身だ…私との記憶は、あの時のことまでいい。今のこの記憶は…ただの調整期間、課程だからな。私の存在無しでも、信玄や佐助の存在があれば、この時間の記憶は成り立つ」
「それでは、白粉殿が…」
兼続が口を挟めば、白粉は自分の唇に人差し指を押しつけ「しー」とその言葉を封じた
「いいのだ…さて、湖は起きそうもない。このまま部屋に連れて行くとする」
そうして立ち上がると、音も立てずに湖を連れ部屋を出た
その後ろ姿を追う者、黙る者、それぞれではあるが部屋には沈黙が訪れる
「あやかし…とは、その存在まで自身の意思で朧気にする者なのだな…」
小さく信玄の声だけが聞こえた