第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
結局、全部とまではいかないが、いつもの倍量はお腹に収まっただろう湖は、食べ終わると「おなか いっぱいでうごけない」っと横になってしまうのだ
「…よく頑張って食べたな」
そのすぐ横には機嫌の良い白粉の姿
やっと落ち着いて食事をした我が子に安心したようだった
「必死に食べてたね、湖さん」
「うん…もう、だめ…」
佐助にそう言うと湖は、「こっちの方が楽かも…」と、その姿を鈴に変えてしまう
そうすれば、湖の今まで着ていた着物には小さな膨らみが出来るのだ
「湖…お前、そうたびたび鈴の器を借りるな。戻る際にどうするんだ?」
そう言いはするが、白粉の顔は穏やかだ
なぁん♪
そして、湖も白粉の機嫌の良さは解っているのだろう
着物からはい出ると、機嫌よさげに鳴いてみせるのだ
「おぉ、鈴の身体も成長したか…湖、腹がぽっこり出てるぞ…」
信玄が猫を抱き上げれば、確かにぽこりと出ているお腹
そして湖の抵抗もほとんど無い
もう腹一杯で一切動きたくないとでも言うように、されるがままなのだ
くくっと信玄が笑い、その体を下ろす
すると、湖はぽてぽてと重たそうに歩き、白粉の膝の上で寝始めるのだ
「…ずっと気を張っていたからな…お休み、湖。今日はもうゆっくり休め…」
くすりと笑うと白粉はその背中を優しく撫でてやる
小さな猫は安心したように体を丸めて目を閉じた
しばらく食事をすると、三成は湖が寝ていることを確認し白粉に話しかけた
「…白粉殿は…生き返ったわけではないと仰っておりましたね」
唐突ではあるが、聞かれるであろうと思っていた事に、白粉は「そうだ」と頷いた
「では…」
「手短に話してあったな…あの後、死した体から幾分かの精神だけを湖の中に残し見守っていたと…」
「そうです」
はぁっとため息をつく白粉
「湖を助ける為に、先日あった登竜桜様を訪ねた。そこで、時を戻し器を安定させる処置を取ることになったんだ。佐助も湖も…ただ、湖の場合は鈴との調和もある。生まれから同一体にし定着させる必要があった。あの二人ともが不調を出さないようにな」