第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
「あれ…?湖、なんかわるいことした?」
「湖様―っ、申し訳ありませぬっ!某が悪う御座いますっ」
「え?え??かねつぐ?」
「六歳だ、こどもだ等という括りで見ておりましたっ」
「まって、かねつぐ?どうして泣いてるの…?湖、なんか…わるいことした?」
よく解らないが、兼続が涙しているのは自分のせいだとは感じた湖
信玄の腕から降りると、すぐに兼続に駆け寄った
「あの…なんかよくわかんないけど、ごめんね?」
「いえ、湖様は悪いわけではございません…っ」
「湖様、先日より湖様が机から離れないことを皆様、心配していらしてたんです。私もですが…。集中されるのは、とても良い事ですが、周りに心配をかけない程度に致しましょう?」
首を傾げて三成を見て湖は少し考えるような表情を見せた
「しんぱい…?」
「そうです。湖様が食事もされずに、立ち上がりもせず没頭される様子は、私たちからすれば、身体を壊さないか心配になるのです」
「…湖が、元気がなくなるから?しんぱいになるの…?」
「さようでございます。湖様」
周りを見れば、みんな自分の様子を見ているようだった
「…けんしんさまも?けんしんさまも、湖がしんぱいなの?」
「当然だ。お前は、それ以上身を削るところもない状態で、何度食事を抜くつもりだ」
「ゆきも?」
「ちびのくせに食わずにあんなことしてたら、ぶっ倒れるだろうが」
くぅぅぅーと、湖のお腹がもう一度大きくなる
「そっか、そうなんだ」と頬をほころばせた湖は、へらりと緩い笑みを浮かべて
「…うん…おなかへっちゃった」
そう言った
「当然だな」
どんと、目の前に置かれたお膳
そこには、これでも勝手ほども食事が乗っている
「まさむね、これ…ととさまの?」
「いーや。お前のだ。抜かした分しっかり食え!」
「えーーー?!」
「えーじゃないだろ、湖。少しは食って、肉をつけろ。でなきゃ、馬に振り落とされるだけだぞ」
ぴしっと、指で額を弾かれ
少し赤くなったそこを押さえる湖
政宗は、当然だろうっというような表情で「とにかく、食え」と箸を持たせるのだ
「…はーい…」