第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
六歳になってから四日目
文字の読みに続き、書き方の勉強が始まった
兼続は関心することになる
三成の湖の扱い方に
飽きてきたと思えば、全く別の事に話を振り少しの休息と楽しみを与えては、もとの勉強に戻す
湖もまた素直にそれに従って、長時間の集中は出来ないものの
兼続が思っていたより早いペースで学習が進むのだ
「湖様、ここは丸みを描いてからはらう…そうです。上手ですよ」
湖の筆を持つ手を後ろから支えながら、ひらがなを書かせる三成
何文字目になるだろう
その横には、書かれた分の紙が積まれていくのだ
兼続は、その紙の一番上を見て感心する
(はじめて筆を持って文字を書いているようには見えない…)
その字は、はじめはお世辞にも上手いとは言えない落書き
それが三成の言葉と指導で、あっという間に読める文字になり、今書いた文字は一文字ではあるが綺麗な形の文字であった
「湖様、素晴らしいです」
兼続の褒め言葉に、湖もうっすら頬を染めた
「みつなりさま、かねつぐにほめられた!」
後ろに立ち膝で立ち、自分の手を支える三成
湖は首を受けに向けて、三成の顔をのぞき見るように笑うのだ
「はい。よろしゅうございましたね」
そんな湖に三成も笑い返す
この日の昼餉までに、湖が書けるようになった文字はひらがなの半分以上だ
もともと読めていた文字ではあるが、この結果に兼続は驚いていた
部屋の一室で、そんな勉強が行われていた頃
稽古場では…
「なんで、俺まで」
「おぉ、いいな。ずいぶん広い稽古場だな」
「謙信様の趣向に合わせると、このくらいの広さが必要だったので改造しました」
文句をいう幸村
政宗は案内された稽古場に感心している
そして、幸村の背に乗せられた佐助
「なんで、俺まで…っていうのは、俺の言葉だ。幸村…俺は役に立たないだろうから部屋にいたいんだが…」
「知るか。謙信様が連れてこいって言うんだ」
その謙信は、木刀片手に楽しそうに口角を上げているのだ
「なんだか解らないが…とりあえず、端の方に下ろしてくれ」
「あぁ」