第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
「湖様、お待ちをっ…!」
「やぁよ!かねつぐ、また巻物もってるんだもん!」
バタバタと城内を駆ける音は、湖が三歳の頃より大きくなっていた
政務の広間からそれをのぞき見ていた家臣達は…
「少し前に見た光景だな」
「元気な姫様だ」
と言い笑っている
「今度は、筆で文字を書きましょう!」
「書くのはいい!いらないもん!」
「いーえ。いずれは必要になりまする!湖様、お待ちをっ」
「やだっ」
バタバタと走っていた湖だが、曲がり角でやんわりとその身を止められた
ぶつかりそうになった湖を、軽く受け止めるように確保したのは…
「っ、みつなりさま」
「おはようございます。湖さま」
にこりと見下ろし微笑む三成に、湖も笑い返す
「おはようございます」
「っ、はぁ、はぁ…石田殿」
「っ、あ。みつなりさま、ごめんなさい」
兼続に追いつかれ、湖は三成を追い越して逃げようとしたが、両肩にかかった手が外れない
「みつなりさま?」
上を見上げれば、三成は申し訳なさそうにその身をかがめて湖と視線を合わせると言った
「残念ながら逃がせません。私も直江殿と一緒に、湖様のお勉強を見ると約束いたしましたので」
「えぇ?!」
「そういうことですっ!湖様、観念なされ」
「湖様、一つ何か出来るようになればご褒美を用意いたしましょう。何がよろしいでしょうか?」
「あ、それは…っ」と兼続が三成を止めようとするが遅い
湖は、待ってましたとばかりにすぐに返答するのだ
「馬!湖、馬、ひとりで乗りたい!」
「あぁ…やはりですか…」と顔を青ざめる兼続
そんな様子に三成はくすりと笑い、湖の髪を撫でた
「…ご要望は承りました。ですが、それには直江殿の合格が必要になりそうですね…湖様、頑張れますか?」
「お馬さんにのっていいなら、湖がんばるよっ!」
幼子は拳を握って決意を見せる
「では、私も湖様が合格するようにお手伝いいたします。乗馬の事も掛け合いましょう」
にこりと微笑む三成に、湖は「ほんとね?やくそくだよ!」と三成の手を握って跳ねた