第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
「政宗だ。あいつが飯を作ったんだと…どうする?湖」
「っ、たべる!まさむね、おりょうりできるんだっ、すごいね。湖、いくよー」
「…仕方ない。解った、広間に行く」
それを聞いた女中は、ほっとしたように声が変る
「かしこまりました、それでは広間で準備いたしております」
そう言い下がっていた
「謙信、お前はどうする?」
「けんしんさまも、いこー」
眉間に皺を寄せたまま言葉を発したない謙信に、湖は小首を傾げる
(…どうしたんだろう…?あ、そうだっ)
そんな謙信に、なにか閃いたように湖は笑うと…
その額に
ちゅう
小さな口づけをする
信玄は、「あーあ」という顔でそれを見ていた
謙信の眉間の皺は無くなり、少し目が見開かれる
「えへへー。元気がでる「おまじない」」
無邪気な笑みの湖に「まずったか…」と口にした信玄
「「おまじない」だと?信玄、一体何の話だ」
広間には、政宗、三成、兼続、そして幸村がすでに来ていた
「なんで、俺まで…」
幸村は出かけようとしていた所を兼続に捕まり、三成の意図しない挑発に乗り、ここで料理を運ぶ手伝いをしていたのだ
「まぁ、そう言うな。上手く作れたんだ、食ってみろ」
そう言いながら、政宗は幸村の肩をポンと叩く
「…確かに上手そうだけどな…」
ちらりと見た皿からは、おいしそうな匂いが漂う
「…そこまで言うなら、食ってやる」
「幸村殿、政宗様の料理は本当にどれもおいしゅうございます。私はすぐに食事にさほど執着しておりませんが、政宗様の料理は本当に…」
「三成、お前のは「さほど」ではなく、「全く執着していない」だ。ったく…人間食うことは出来ているんだ。少しは…」
政宗達が言い合いを始めれば…
「ごはーん!」
と幼い子が外から聞こえ始めた
「こら、湖。駆けるな」
「かかさまにいってくるー!ととさまと、けんしんさまは先にいってってー」
バタバタと、広間を通り過ぎていく足音
「まったく…兼続に教育係任せっきりで似たんじゃ無いのか?」
「…違うとは言い切れんな…」
広間の襖が開かれれば、信玄と謙信の姿が見えた
「湖様の…あの走りっぷり…否定はできませぬ…」
そして、彼らの目の前には青ざめる兼続がいるのだ