第25章 桜の咲く頃 　二幕（六歳）

「そうだ。可愛くなりたいって思うだろう？」
「かわいく…うん。湖、ととさまたちに「かわいい」っていわれると、うれしくなるよ」

素直な少女は、笑ってそう答えるのだ

「湖様、そのまま。そのまま某の計画通り、健やかにお育ちくださいませっ」

兼続が、手を握りしめ喜んでいるようだった
それに佐助がすかさず突っ込みを入れた

「兼続さん…思考がだだ漏れです」
「っなんと…これは、失礼を…っ」

「で。佐助、お前…一体何歳くらいなんだ？」

幸村が気になっていたかのように佐助に聞く

「一五歳だ。だいぶ、幸村に身長が追いついたな…あと10ｃｍくらいか…」
「お前、一体その間にどれだけ伸びたんだ…」
「あぁ。それだ、うっかりしていた。謙信様」
「なんだ」

佐助が謙信の方を向くと、困ったような表情を見せる

「大変言いにくいことなんですが、今の俺は成長痛ピークなので…すみません。この一ヶ月、軒猿として役に立たないと思われます」
「なんだ…せいちょうつう？」
「背が一気に伸びた事による体節々の痛みです。実は、此処に帰ってくるだけで目一杯でした」

そう言いながらも表情を崩さない佐助に、幸村がその背中をバンと叩いた
いつもならふらつきもしない佐助が、その場に膝をつけば…

「っ、にーさま？！」
「だ、大丈夫。湖さん…」

湖が驚いて駆け寄ってくるのだ

「安心しろ。金創医を呼んでやる」

と、なにやら怪しげな笑みを浮かべる幸村

「…よもや世話になるとは思わなかった」
「お前は、自分で薬草も煎じてたもんな。まかせろ、兄ちゃんが運んでやろうか？」
「…結構だ。といいたいところだが、実は本気で辛い。幸村、悪いけど肩だけ貸してくれ」

本気か？と少し驚きの表情を浮かべながらも、幸村は佐助を部屋から連れ出していった

「…にーさま…へいきかな…」
『安心しろ。ただの成長過程だ。お前だって、ある程度すればあぁなる』

白粉の言葉に湖は「え…」と顔を青ざめる

「確かに…湖の身長の伸び方じゃあ、あぁなってもおかしくはないな」
「それより、何か食わせる必要があるだろう」




結局、その日は気づけば宴が始まっていた
翌日、さっそく無遠慮な客が来るとも知らずに