第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
呼ばれて、謙信に近づけば信玄がしたのと同じように体を持ち上げられ、また同じような顔をする謙信
「…なにか好きな食べ物はあるか?」
「あるよーこんぺいとうと、おだんごと、おまんじゅう」
それを聞いて佐助がぼそりと言う
「…父上の好物ですね」
「佐助、お前わざとそう呼ぶな…」
隣にいる佐助は背が伸び顔つきも大人びた
そう声も声変わりしたようで、今朝までの少年っぽさがない
それで「父上」と呼ばれ笑いながらも青ざめる信玄だった
「…なんでもいい。しっかり食べろ」
「うん?」
「待て!なんだ。それは…っ菓子食って大きくなるわけないだろうがっ」
「うん?」
謙信との会話に入ってきたのは、政宗だ
「湖、いいか。しっかり米を食え。あと肉もだ」
眼帯の男は、まじまじと湖にそう言ってくる
これは、心配してくれているのか?と、そう思った湖は、政宗に向かって笑った
「わかった。ごはん、ちゃんとたべるね。ありがとー」
ふわりと笑うその顔の影に、しっかりと大人の湖の笑顔が見え、安土武将達は一瞬驚いた
「あ。そうだ。えっと…じゅうべいさん 、さきちさん…あの…お兄さんたちは、だれ?」
「誰」と全く知らない表情で見られ、眉を動かしたのは一人ではない
だが、すぐに三成が説明を始めた
「湖様…まずは、先日の非礼をお詫びさせてください。急に現われ、不安にさせてしまい申し訳ありません」
「さきちさん?」
「…私の本当の名は、三成。石田 三成と申します。十兵衛は、明智 光秀様。私達は、安土の武将です」
安土の武将、そう言われてもピンとはこない湖に、佐助が横から説明を始めた
「湖さん、謙信様と信玄様は、安土の信長様と敵対関係なんだ」
「てき?」
「えっと…喧嘩しているってことかな?」
「けんか?なんで?」
首をかしげながら、湖は側にいた謙信の膝の上に座る
「どうして、けんかしてるの?」
上を見て謙信に聞けば、「侵害してくるのを撃退しているだけだ」とそう言う
「…むつかしくて、よくわからない…でも、なかよしではないってこと?」
「…そうだ」
「ととさまも?」
「俺は取られたものを取り返したいだけだ」
「…のぶながさまは、わるいひとなの?」