第25章 桜の咲く頃 二幕(六歳)
『さて、酒の続きだ』
パンパンっ
登竜桜が手を打てば、何処に隠れていたのか多数の動達が姿を現わす
兎に、狸、狐、鳥、鹿、そして熊まで
『お前達も大いに騒げ。湖の成長祝いだ』
続けて打たれた手の音が響けば、どっさりと木の実や果物が現われるのだ
「わぁっ!」
その様子を、目をきらきらさせ喜び見ている湖に
驚き、だが多少は慣れてきたように見ている佐助
四人は、武将達の待つ場所へと向かって歩き出した
「なんだ、あれは…」
「神とはなんでもありなんだな…面白い。女じゃなきゃ、手合わせ願いたいところだ」
「ひっ…おやめください!あの方を怒らせると、どうなるか…ご存じなく変な事を言わないでいただきたいっ!!」
秀吉がその様子を驚き見ていれば、政宗が「へー」と不敵な笑いを見せながら言う言葉に、政頼が打ち消すように慌てた
「ととさまーっ、けんしんさまー、ゆきー」
草を蹴って走る音がすれば、湖が信玄めがけて抱きついてくる
「おっと…」
その体をしっかり受け取ると、自分に抱きついてきた湖の重みを感じた
(…ん?…背の割に…)
「湖、ちょっと…立って見せろ」
「ん?あ、そっか。みてみてー、湖大きくなったよー」
そう言って、信玄の目の前でくるりと回ってみせる湖
確かに背は伸びた
顔も幼さはまだあるが、年齢相当に成長している
だが…
脇に手を入れ、その体を持ち上げる信玄は眉を寄せた
「…軽すぎだろう…」
細い手足に薄い体
ひょろりとしすぐにでも倒れてしまいそうなのだ
(こどもとは、こんなものなのか…?いや…これは細すぎだろう)
「確かに、ちびすけ…いや、痩せ猫だな。これじゃ」
「ゆきっ、また悪口いう!やせてないもんっふつーだもん!」
「いや。肉がないだろ」
「あるよっ!ほらっ!」
腕をまくって幸村に見せても、それは棒のようにただか細い腕なのだ
「…ねーだろ」
それを見て幸村はぎょっとした顔をする
予想していたより、遙かに細いのだ
「…湖、来い」
「なぁに?けんしんさま」